星屑の営業マン
錆びついた宇宙船の残骸が、埃っぽい風に揺れていた。かつては星々へと人々を誘った、輝かしい未来の残滓。だが今、それはただの鉄屑の山に過ぎない。アキラは、その片隅で、古びた宇宙船の部品を前に虚ろな目をしていた。あの頃の顧客たちの顔が、かすかに脳裏をよぎる。彼らを宇宙へと送り出し、希望を売った、あの輝かしい日々の残像。
しかし、今、彼の前に並ぶのは、ただのガラクタだ。彼の心は、失われた「星屑の欠片」への執着と、深い虚無感で満たされていた。それは、彼が宇宙開発企業を辞めるきっかけとなった、個人的な喪失の記憶と結びついたものだった。風が吹き抜ける度に、金属の軋む音が虚しく響く。まるで、彼の心の叫びのようだ。
ある日、アキラは人里離れた、廃墟となった学園の近くを通りかかった。かつて、子供たちの笑い声が響き渡り、未来への希望が語られた場所。校門は歪み、蔦が絡まって、その原型を留めていない。その校門の前には、一人の少女が静かに座っていた。傍らには、古びたスケッチブック。アキラは、埃っぽい風の中に漂う、微かな懐かしさのようなものに引き寄せられるように、彼女に近づいた。
「あなたは何を探しに来たのですか?」
少女の声は、静かで澄んでいた。アキラは、そのあまりにも純粋な問いかけに、一瞬言葉を失う。彼は、自分が「遺物商」であることを告げた。埃まみれの部品を売って、細々と生きている、と。
少女は、アキラの話を黙って聞いていた。そして、ゆっくりとスケッチブックに何かを描き始めた。その形は、アキラがかつて追い求めていた「星屑の欠片」の形に、奇妙なほど似ていた。
「これは、みんなが忘れてしまった、失われた歌の欠片です」
少女は、そう言ってスケッチブックをアキラに差し出した。
アキラは、少女が描いた絵に、失われたはずの「星屑の欠片」の記憶を重ね合わせた。そして、彼がかつて抱いていた、宇宙への純粋な憧れをも。少女の「失われた歌」という言葉は、彼が忘れていた、誰かと分かち合いたかった感情の断片を呼び覚ます。
「これは、ここから、また始まるんです」
少女は、そう微笑んだ。アキラは、彼女の言葉と絵に、営業マンとしてではなく、一人の人間として、誰かと繋がりたいという、微かな希望の灯火が心の奥底に蘇るのを感じた。それは、長い間、彼の中で眠っていた、温かい感情だった。
アキラは、少女のスケッチブックを受け取った。そして、廃校の校門を後にする。少女の姿は、もうどこにも見えなかった。しかし、アキラの心には、少女が描いた絵と、彼女の言葉が静かに響いていた。「失われた歌の欠片」。それは、失われた繋がりや、彼自身の失われた過去への、新たな希望の比喩だったのかもしれない。
彼は、もう一度、あの「星屑の欠片」を探し求める決意を固める。広大な、静かな空を見上げながら、アキラは歩き出した。彼の足取りは、かつてよりも少しだけ、確かなものになっていた。それは、孤独を抱えながらも、繋がりを求め続ける人間の、静かな航海だった。錆びついた都市の風景の中に、彼の背中がゆっくりと消えていく。その胸には、確かな希望の光が灯っていた。