平原に響くプラモデルの叫び

海風が頬を撫でる。かつては活気があったこの町も、今では寂れた平原が広がるばかりだ。健太は、埃をかぶったプラモデルの箱をそっと撫でた。美咲と交わした約束。「いつか、一緒に propeller plane を作ろう」。あれから何年経っただろう。彼女は都会へ行き、この約束も、この町も、遠い過去の記憶になったのかもしれない。それでも、健太はこの特別なキットを、美咲との思い出を、ずっと守り続けていた。

ある日、健太は偶然、美咲が町に帰ってきていることを知った。しかし、彼女は知らない男と、親しげに歩いていた。涼介というらしい。都会的で、洗練された男。健太は、変わらずプラモデルに夢中な自分と、美咲の変わりように、胸の奥がざわつくのを感じた。焦りと、どうしようもない孤独感。

意を決して、健太は美咲に話しかけた。「美咲、これ、覚えてるか? propeller plane のキット。あの時約束したやつだ」

美咲は、健太の差し出した箱を一瞥しただけで、冷たい視線を返した。「もう、そんな子供みたいなこと、やめなさいよ。いつまで過去に囚われているの?」

その言葉は、健太の胸に深く突き刺さった。美咲は、自分との過去を、すべて否定しているのだろうか。一方、涼介は健太のプラモデルへの執着を鼻で笑った。「そんなガラクタに、いつまで縋っているんだ?」そして、美咲の隣で、優しく微笑みかけた。

美咲は、健太のプラモデルに触れる涼介の冷たい視線と、健太の純粋な輝きとの対比に、次第に心が揺さぶられていった。健太がプラモデルに情熱を注ぎ続けたのは、ただの子供の遊びではなく、彼女との約束を守りたかったからだ。あの約束は、美咲にとっても、大切な宝物だったはずなのに。美咲がこの町に帰ってきたのは、涼介との関係に迷いがあったからだけではない。健太に、もう一度会いたかったのだ。

祭りの夜。賑やかな音楽が遠くから聞こえる。健太と美咲は、二人きりで平原にいた。美咲は、健太が大切に抱えるプラモデルに、そっと触れた。幼い頃の、あの夏の日の記憶が鮮やかに蘇る。「ごめんね、健太…」涙が、美咲の頬を伝った。

その時、涼介が現れた。彼の顔には、嘲りと怒りが浮かんでいる。「まだそんなものに、執着しているのか!」涼介は、健太のプラモデルを掴み、叩き落とそうとした。健太は、美咲との約束が侮辱されたように感じ、激しい怒りに燃えた。「これは、俺の、そして美咲との、約束なんだ!」健太は涼介に掴みかかり、もみ合いになった。二人の激しいぶつかり合いの間に、美咲が飛び込んだ。「もう、やめて!」美咲の叫びが、平原に響き渡った。その声に、健太の怒りと悲しみ、そして美咲への抑えきれない愛が、堰を切ったように溢れ出した。美咲もまた、健太への愛を叫んだ。「健太!」二人の熱い想いが、夜空に、そして広がる平原に、溶けていくようだった。

激しい感情のぶつかり合いの後、二人は互いを強く抱きしめた。プラモデルは、無残にも壊れてしまった。しかし、その破片を拾い集めながら、健太と美咲の心は、かつてないほど強く結ばれた。喪失感と、それ以上に大きな高揚感。平原に響くのは、二人の熱く、感動的な、愛の叫びだった。

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