呪われた宿題
放課後の教室は、夕陽に染まり始めていた。佐藤健太は、数学の教科書を広げながら、頭を抱えていた。田中先生から課された「呪われた宿題」。都市伝説のように囁かれるそれは、解けば解くほど奇妙な現象が起こるという。落第だけは避けたい一心で、健太は渋々、その難解な数式と向き合っていた。しかし、問題に触れるうちに、健太の内に秘めたパズル好きの血が騒ぎ始める。数字が織りなす論理の美しさに、次第に引き込まれていった。
宿題を進めるにつれ、健太の周りで奇妙な出来事が起こり始めた。ある素数の問題を解いた時、教室の蛍光灯が一斉に点滅した。また別の問題を解くと、開いたはずのない教科書が、ぱらりと勝手にページをめくったのだ。クラスメイトの山本陽子に、半信半疑で話してみた。「なんか、この宿題、変なんだ。数字を解くと、変なことが起こるんだよ」。陽子は明るく笑った。「健太、また変なこと言ってる。きっと気のせいだよ」。だが、健太は確信していた。これは偶然ではない、と。
健太は宿題のパターンに気づいた。問題の数字や記号が、ある法則に従って変化している。まるで、誰かが意図的に仕掛けたメッセージのようだ。これは単なる数学の問題ではなく、何らかの暗号なのではないか? 宿題の難易度が上がるにつれて、「呪い」のような現象もエスカレートしていく。健太は「呪い」という言葉に囚われそうになったが、それ以上に、この仕掛けの裏に隠された真意を探りたいという好奇心が勝っていた。
ついに、宿題の最終問題にたどり着いた。これまでの問題の答えを組み合わせることで解ける、複雑なパズルだった。健太は、持てる知識と集中力の全てを注ぎ込み、その謎を解き明かした。そして、その瞬間、全てを理解した。これは「呪い」などではなかったのだ。田中先生が、健太の「観察力」と「論理的思考力」を試すために仕掛けた、壮大な「挑戦状」だったのだ。先生がかつて所属していた謎解きサークルの課題をアレンジしたものらしい。そして、先生が時折見せる「抜けている一面」は、この仕掛けに健太を気づかせないための、巧妙な「ミスリード」だったのかもしれない。
健太は、先生の意図を理解し、満点の解答を提出した。田中先生は、健太の成長を認め、「落第の心配はない」と静かに告げた。健太は、呪いだと思い込んでいたものが、実は自分を成長させるための仕掛けであったことに気づき、思わず膝を打った。陽子も、健太の推理に感心したように目を輝かせた。健太は、先生の仕掛けたパズルを解いたことで、自分を縛り付けていた「呪い」という名の固定観念から解放されたような、爽快な達成感に包まれていた。放課後の教室、窓の外を眺める健太の目に、何気ない日常に隠された法則性や「仕掛け」を見つけようとする、新たな好奇心が宿っていた。