叔父さんのARお土産

亡き叔父、直人の遺品整理を手伝うため、健太は新幹線に揺られていた。叔父は生前、奇妙なメッセージを残している。「最高の仕掛けを用意した。量子インプリントされた記憶の断片、君にはまだ早いだろうが…」。健太は、昔から叔父の秘密主義と専門用語の羅列に辟易していた。今回も、一体何を仕掛けられたのか、想像もつかない。

揺れる車内。健太は叔父の遺品の中から、無骨なデザインのARグラスを見つけた。退屈しのぎにかけてみる。すると、車窓の外に、見慣れたはずの風景とは異なる、色鮮やかな映像が映し出された。叔父が過去に旅した風景だろうか。車内の人々が、ぼんやりとしたCGで再現されている。叔父の独り言のような音声が、かすかに聞こえてくる。「…あの頃は良かった…」「…健太も大きくなったな…」

やがて、映像の中に、ひときわ鮮明なメッセージが現れた。「ここに、君への本当のプレゼントがある」

そして、一つの座席番号が点滅している。4号車、12番B席。

健太は、訝しみながらも指定された座席へ向かった。そこには、一見するとどこか浮世離れした雰囲気の女性が座っていた。健太が話しかけると、彼女は怪訝な顔をする。「何か御用ですか?」

健太はARグラス越しに彼女を見た。すると、驚くべき光景が広がっていた。彼女の背後に、ふわりと叔父の姿が重なって見えたのだ。叔父は、彼女の足元あたりを指差している。まさか、叔父の指示なのか? 健太は、恐る恐る、その座席の下を覗き込んだ。

そこにあったのは、小さな金属製の箱。叔父のイニシャル、「N.S.」が刻まれている。

健太はARグラスを外し、箱を開けた。中は空っぽだ。しかし、再びグラスをかけると、箱の中には、キラキラと輝く無数の宝石のようなものが表示された。それは、健太が幼い頃、叔父と交わした約束を思い起こさせた。「いつか、君だけの宝物を見つけてあげる」

叔父は、このARグラスでしか見ることのできない「宝物」を、健太への最後のプレゼントとして残したのだ。物理的な形はない。しかし、健太の心には、それ以上の温かさが満ちていた。

健太は、叔父の巧妙な仕掛けに、思わず膝を打った。ARグラスを外せば、そこにあるのは空の箱。しかし、グラスをかければ、そこは輝く宝物で満たされる。現実の虚しさと、仮想の豊かさ。その境界線で、健太は叔父の愛情の深さを感じていた。

新幹線は、ゆっくりと減速していく。目的地に到着だ。健太は、ARグラスをかけたまま、仮想の宝物を見つめていた。叔父が遺した、形のない、しかし何よりも価値のある「記憶」という名の遺産。健太は、その温もりを胸に、新たな一歩を踏み出す決意を固めていた。

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