秋の夕暮れ時、ユキは一人、学校の屋上にいた。どんよりと曇った空は、鉛色に染まり、遠くで低く、しかし確実に雷鳴が反響していた。空気に溶け込むような静けさの中に、鼻腔をくすぐる微かな金属臭が混じっている。ユキは、その変化に、まるで微細な振動を捉えるかのように、静かに気づいていた。日常の風景が、ほんの少しだけ、異質な色合いを帯び始めた瞬間だった。

雷鳴が次第に大きくなるにつれて、ユキの脳裏に、まるで古いフィルムが巻き戻されるかのように、断片的な映像がフラッシュバックし始めた。それは、見慣れない、しかしどこか計算されたような幾何学模様。そして、耳慣れない、音の羅列。映像は不鮮明で、輪郭はぼやけている。しかし、その異質さは、脳の奥底にまで鮮烈に刻み込まれるかのようだった。それは、遠い宇宙の深淵から放たれた、純粋なノイズが、唐突に、そして不可解に、ユキの脳内で具現化したかのようだった。

突然、最も近くで、鼓膜を震わせるほどの激しい雷鳴が轟いた。その衝撃は、ユキの全身を痺れさせた。その瞬間、屋上の隅に忘れ去られたように置かれていた古いラジオから、ノイズ混じりの音声が、かすかに、しかし確かに流れ始めた。それは、先ほどの断片的な映像と、奇妙なほどに共鳴する、未知の言語だった。ユキは、雷鳴の特定の周波数と、ラジオから流れる音声のパターンに、統計的な相関があることを、冷徹に分析していた。この現象は、単なる偶然ではない。外部からの、意図的な情報干渉である可能性が高い。まるで、誰かが、あるいは何かが、この場所を選んで、この瞬間に、メッセージを送ってきたかのようだった。

雷鳴は徐々に遠ざかり、その轟音も弱まっていく。それに呼応するように、ラジオから流れていた音声も、静かに途切れた。屋上には、再び、あの秋の夕暮れ時特有の静寂が戻ってくる。ユキは、先ほどの出来事を、静かに、しかし熱を帯びた思考で反芻していた。それは、宇宙の気まぐれな戯れだったのか、それとも、何らかの明確な意図を持った干渉だったのか。確かなことは、何も分からない。しかし、ユキの胸の奥底には、言葉で説明のつかない、しかし確かに存在する「何か」が、静かに、しかし力強く残っていた。それは、遠い星からの、あるいは未知の次元からの、静かな囁きだったのかもしれない。ユキが空を見上げると、その空は、先ほどよりもさらに、深い暗さを増していた。