スタジアムのキラキラおみそしる
「いただきまーす!」
はなちゃんは、お母さんが作ってくれた温かいおみそしるを飲んでいた。湯気が、ふわふわと立ち昇り、鼻腔をくすぐる。いつもの、ほっとする味。でも、今日はなんだか、ふわっと、特別な香りがした気がした。
「お母さん、このにおい、なんだろう? すっごくいいにおい!」
はなちゃんは、きょろきょろと辺りを見回した。お母さんは、にっこり、優しく微笑む。
「あら、本当? スタジアムの方から、なんだか不思議な、でも美味しそうな匂いがするのよ」
スタジアム。いつもは、サッカーの試合で、わー!きゃー!って、たくさんの人が集まる、大きな場所。でも、今は、静かで、なんだかひっそりしているはず。
なのに、不思議な匂い? はなちゃんの胸が、ドキドキ、わくわく。ふしぎなにおいの、ひみつを知りたくなった!
「いってみよう!」
はなちゃんは、お母さんと一緒に、スタジアムの近くまでお散歩に出かけた。
試合のない日のスタジアムは、しーんとして、なんだか、眠っているみたい。大きな建物が、どっしりと構えている。でも、どこからか、さっきのおみそしるに似た、もっとキラキラした、楽しいにおいがふわり、ふわり。
それは、まるで、楽しそうな歌が聞こえてくるみたいだった。風に乗って、甘いような、しょっぱいような、いろんな匂いが混ざり合って、はなちゃんの心をくすぐる。
「においの、もとはどこかな?」
はなちゃんは、きらきらしたお目々で、スタジアムの周りを見渡した。そして、お母さんと手をつないで、スタジアムの裏側へ、そーっと足を踏み入れた。
そこには、元気いっぱいの芝生のにおいと、選手たちの熱気、それから、みんなの応援の声が、ぎゅっと詰まっているみたいだった。土の匂い、草の匂い、汗の匂い。それが混ざって、なんだか、力強い、温かい空気が流れている。
スタジアムの、大きな壁に沿って歩いていると、はなちゃんは、ちっちゃな扉を見つけた。それは、まるで、隠れんぼしているみたいに、草に隠れるようにあった。
扉のすきまから、あのキラキラのにおいが、ぷんぷん! もっと強く、甘く、おいしそうな匂いがする。
「わぁ…!」
はなちゃんが、そーっと扉を開けると、そこには、まぶしい光景が広がっていた!
色とりどりの野菜が、元気よく転がっていて、キラキラ光る魔法のつぶつぶが、まるで踊るみたいに、あちこちに散らばっている。
そして、そこにいたのは、ちっちゃな妖精さんたち! 小さな羽をパタパタさせながら、忙しそうに動き回っている。
「これはね、スタジアムの元気と夢を、おいしいおみそしるにする魔法なの!」
一人の妖精さんが、はなちゃんに話しかけてくれた。
「選手たちの汗のしずく、サポーターの熱い応援、芝生の元気な緑の香り…ぜーんぶ集めて、特別な、キラキラおみそしるを作っているんだよ!」
そうだったんだ! あの不思議な匂いは、スタジアムの、みんなの気持ちが集まった、魔法のおみそしるの香りだったんだ!
妖精さんたちは、はなちゃんに、出来上がったばかりの、キラキラおみそしるを味見させてくれた。小さな、貝殻の器に入っている。
「わぁ!あったかい!元気が出る!」
はなちゃんは、一口飲んで、目を丸くした。それは、今まで飲んだことのない、キラキラした、でも、なんだかちょっぴり切なくて、とっても幸せな味がした。
「この味は、みんなが応援してる気持ちみたいだね!」
はなちゃんは、お母さんのおみそしるも、スタジアムのキラキラおみそしるも、心の中でぎゅっと抱きしめた。どちらも、温かくて、優しい味がする。
家に帰ると、お母さんが「あら、はなちゃん、なんだかキラキラしているわね。いいことでもあったの?」と微笑む。
はなちゃんは、今日あったふしぎな出来事を、胸がいっぱいで、絵本に描こうと、クレヨンを手に取った。スタジアムの妖精さんと、キラキラおみそしるの絵。
この町には、まだまだ、素敵な物語がいっぱい隠れているんだ! きっと、どんな些細なことにも、キラキラした魔法が隠れているのかもしれない。
はなちゃんは、そんなことを考えながら、夢中でクレヨンを走らせた。