ドキドキ交差点と魔法のクッキー
いつも、たくさんの人が行き交う、賑やかな交差点。
コトリは、おばあちゃんと手をつないで、パン屋さんへ向かう途中、その交差点のそばを通るのが好きだった。 信号が変わるたびに、わーっ、と人が動く。みんな、どこへ行くんだろう?
「いいなあ、あの子たちみたいに、自由に歩けたらなあ」
コトリは、立ち止まって、遠くへ歩いていく子供たちを羨ましそうに見つめた。自分は、いつもおばあちゃんの手をぎゅっと握って、決まった道しか歩かない。ちょっとだけ、臆病なんだ。
その日、コトリは、交差点の角に、見たことのない小さなお店ができているのに気がついた。「あれは何だろう?」
「こっちよ、コトリ」
おばあちゃんに優しく手を引かれて、コトリはパン屋さんへと向かった。
パン屋さんの温かい匂いに包まれながら、コトリは、やっぱりあの新しいお店が気になって仕方なかった。 「おばあちゃん、あのね、角のお店、ちょっとだけ見てきていい?」
「いいわよ。でも、迷子にならないように、気をつけてね」
おばあちゃんは、ニコニコしながら、コトリの背中をそっと押してくれた。
ドキドキ、ドキドキ。
コトリは、勇気を出してお店に近づいた。そこには、「魔法のクッキー屋さん」と書かれた、キラキラ光る看板が出ていた。
ショーウィンドウには、星や月の形をした、宝石みたいに綺麗なクッキーがたくさん並んでいる。
「わあ…」
コトリは、思わず息をのんだ。
お店の中に入ると、甘くて、ふわっとしたクッキーの香りが広がった。
「やあ、こんにちは。どんなクッキーがお好みかな?」
お店のおじいさんは、ニコニコしながら、コトリに話しかけた。穏やかで、不思議な雰囲気のおじいさんだ。
コトリは、一番キラキラした、星の形のクッキーを指さした。 「あの、あれ、ください!」
おじいさんは、そのクッキーを丁寧に袋に詰め、コトリに手渡した。 「このクッキーを食べるとね、君の心の中に、小さな勇気の種がまかれるんだよ。それはね、きっと、君をキラキラさせてくれる魔法なんだ」
コトリは、半信半疑だったけれど、おじいさんの言葉に、なんだかワクワクした。
コトリとおばあちゃんは、パンとクッキーを持って、またあの交差点に戻ってきた。
勇気のクッキーをポケットに入れ、コトリはドキドキしながら、信号が青になるのを待った。
いつもなら、おばあちゃんの隣で、じっと立っているだけ。
でも、今日はなんだか違う。
ポケットの中のクッキーが、ほんのり温かい気がした。
信号が、青になった。
コトリは、おばあちゃんの手をぎゅっと握りしめた。そして、ふと、もう片方の手で、勇気のクッキーを握りしめた。
その時、おばあちゃんが落としたハンカチを、反対方向へ歩いていく男の子が拾ってくれた。
「ありがとう!」
おばあちゃんが手を振ると、男の子は笑顔で手を振り返し、そのまま反対方向へ歩いていった。
「わたし、あっちのお店にも行ってみたい!」
コトリは、その男の子が消えていった方向を指さした。それは、パン屋さんとは反対側の、新しい道だった。
おばあちゃんは、コトリの顔を見て、優しく微笑んだ。 「あら、いいわね。どんな発見があるかしら」
コトリとおばあちゃんは、勇気を出して、新しい道へ歩き出した。
交差点の真ん中を渡る時、コトリは、色々な方向へ進んでいく人々を見て、心の中で思った。
「みんな、それぞれの運命の道へ、向かっているんだな」
クッキーの甘い香りが、ふわりと鼻をくすぐる。
コトリは、勇気のクッキーを一口かじった。
サクサク、甘い。
まるで、お日様をぎゅっと食べたみたい!
なんだか心がポカポカしてきた。
新しいお店、新しい道。
これから、どんな素敵なことが待っているんだろう。
コトリは、ちょっぴりドキドキしながらも、希望に満ちた笑顔で、おばあちゃんと一緒に、新しい冒険へと歩き出した。