キラキラSSDと、ぶーぶー馬くん

緑豊かな丘のふもと、小さな町のはずれに、「ひかりのたねやさん」という、古びたけれど不思議な力を持つお店がありました。そこに住むコトちゃんは、好奇心旺盛な女の子。でも、ちょっと短気で、すぐに「もう!」と怒ってしまうのです。

コトちゃんには、馬くんという大切な友達がいました。馬くんは、ふわふわの馬のぬいぐるみ。普段は穏やかで優しいけれど、コトちゃんが怒ると、顔を真っ赤にして「ぶーぶー!」と鼻を鳴らして悲しそうな顔をするのです。コトちゃんは、自分の怒りのせいで馬くんが悲しむのが、たまらなく嫌でした。

ある日の午後、公園で遊んでいたコトちゃんは、友達と些細なことでケンカをしてしまいました。カッとなったコトちゃんは、いつものように大声で「もう!」と叫びました。その瞬間、コトちゃんが抱きしめていた馬くんが、いつも以上に「ぶーぶーぶー!」と激しく鳴き出したのです。馬くんの顔は真っ赤になり、コトちゃんの手からするりと滑り落ちてしまいました。コトちゃんは、馬くんがただ怒っているのではなく、本当に怖がっているような気がして、胸が締め付けられるような思いでした。

しょんぼりしたコトちゃんは、馬くんをぎゅっと抱きしめ、町のはずれにある「ひかりのたねやさん」へ向かいました。店の扉を開けると、ふわりと甘い香りがしました。カウンターの奥では、店主のおじいさんが、静かに微笑んでいました。

「おじいさん、どうして馬くんは、私が怒るとあんなに怖がるの?」

コトちゃんが涙声で尋ねると、おじいさんはゆっくりと頷きました。

「怒りってね、本当は、君が何かを大切に思っている証拠なんだよ。大切なものを守りたい、という強い気持ちのサインなんだ」

おじいさんは、そう言って、キラキラと虹色に光る小さな箱を取り出しました。それは、「種まき箱」と名付けられた、不思議な箱でした。

「これはね、君の怒りの気持ちを、優しく受け止めてくれる箱だよ。怖がらせるんじゃなくて、君の気持ちを、そっと包んでくれるんだ」

コトちゃんはおそるおそる、馬くんを抱きしめながら、箱に「もう!」という怒りの気持ちをそっと入れました。すると、種まき箱は、優しく温かい光を放ち始めました。すると不思議なことに、「ぶーぶー」という馬くんの鳴き声が、だんだんと心配そうな、でもとても優しい声に変わっていくように聞こえたのです。

コトちゃんの怒りの気持ちが、箱に吸い込まれていくように感じられ、心がふわりと軽くなりました。そして、箱の中から、小さな、キラキラした星のようなものが現れました。それは、コトちゃんが怒りを乗り越えた時に生まれた、馬くんへの「大好き」の気持ちでした。

「馬くん、ごめんね。怒っちゃって、ごめんね」

コトちゃんは、馬くんをぎゅっと抱きしめました。馬くんは、いつものように「うまうま」と静かに鳴き、コトちゃんの顔を優しく舐めてくれました。コトちゃんは、怒りの気持ちも、馬くんの優しい気持ちも、どちらも自分にとって大切なものなのだと気づきました。

ひかりのたねやさんでもらった、キラキラの星をポケットに入れ、コトちゃんと馬くんは、手をつないで(馬くんはコトちゃんの手を引くように)、夕焼け空の下、家路につきました。馬くんの温かい体温を感じながら、コトちゃんは安心して、そっと目を閉じました。もう、怒っても大丈夫。だって、その隣には、いつも優しい馬くんがいるのですから。

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