ひかりのスキー
夏休みも、もうすぐ終わり。ゆうなは、絵日記の宿題に何を描こうか、うんうん唸っていた。
窓の外には、夏の終わりの太陽が、海辺の小さな町を照らしている。ゆうなの家の近くには、冬になると真っ白な雪に覆われて、スキー場になる大きな丘があった。
今は、太陽の光を浴びて、草がキラキラと輝いている。
「もし、この丘で夏でもスキーができたら、どんなに楽しいだろう!」
ゆうなの頭の中に、ふしぎな光景が広がった。雪じゃなくて、キラキラ光る草の上を、シュプールを描きながら滑っていくんだ。
ゆうなは、さっそく絵を描き始めた。夏の丘を、真っ白なスキー板で滑り降りる自分の姿だ。おばあちゃんが、ゆうなの部屋を覗きに来た。
「あら、ゆうな。それは楽しそうな絵ね。でも、雪がないとスキーはできないんじゃない?」
おばあちゃんは、優しく微笑んだ。
「ううん、できるよ!」
ゆうなは、窓の外の丘を指さした。草の葉が、太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
「ほら、この光で滑るんだよ!きっと、できるんだ!」
ゆうなは、ゆめうつつで、夏のスキーができると信じてやまなかった。
次の日、ゆうなは友達のけんたを誘って、丘へ向かった。
「けんた、聞いて!私ね、夏でもスキーができる方法を見つけたんだ!」
ゆうなは、興奮気味に「夏のスキー」のアイデアを話した。
「えー、ゆうな、それは無理だよ〜」
けんたは、いつものように、ゆうなの突拍子もない話にツッコミを入れた。でも、ゆうなのキラキラした瞳を見ていると、なんだか面白そうに思えてきた。
「まあ、ゆうなが言うなら、やってみようかな。」
二人は、丘を駆け上がった。ゆうなは、丘の斜面の草の上を、スキー板を履いているつもりで滑ってみたり、風に乗って空を飛んでいるつもりで、思いっきりジャンプしてみたりした。
草いきれと、ひんやりとした風が、ゆうなの肌を優しく撫でる。
「わーい!すごい、風が歌ってるみたい!」
ゆうなは、思わず声をあげた。
丘の頂上に着くと、二人は朝日が昇るのを待つことにした。
空が、だんだんと白んでいく。やがて、地平線から、太陽が顔を出した。
丘全体が、黄金色の光に包まれる。
草の葉についた朝露が、無数のダイヤモンドのように、キラキラと輝き始めた。
まるで、光の粒が、空から降り注いでくるようだ。
「わあ、きれい!」
「すごい!なんだこれ!」
ゆうなは、息をのんだ。この光景こそが、「夏のスキー」の秘密なんだ、と直感した。
雪の代わりに、このキラキラ光る朝日の光で滑るんだ。光の粒が、肌を優しく撫でる。
風が、まるで歌っているかのような音が聞こえる気がした。
ゆうなは、その感動を、絵日記に描くことにした。雪ではなく、光の粒がキラキラと舞う、不思議で楽しいスキーの絵だ。
草の葉が風にそよぐ音、朝露がきらめく様子、そして何よりも、光の粒が肌を撫でる温かい感覚が、絵の中に息づいている。
「すごい!ゆうなの夏のスキー、見てみたい!」
けんたも、その絵を見て、興奮した様子で言った。
おばあちゃんは、二人の笑顔を見て、優しく微笑んだ。
「どんなものでも、見方を変えれば、新しい発見があるものだよ。ゆうなのスキーは、光のスキーだね。」
ゆうなは、夏休みの最後に、最高の宝物を見つけたような気持ちになった。丘の上で見た光景は、まるで魔法のようだった。自分だけの、特別なスキーの思い出だ。
この発見は、きっと、これからもゆうなの心の中で、キラキラと輝き続けるだろう。