消えた出張土産

数日間の出張が終わり、田中健太は自宅のドアを開けた。妻の笑顔を思い浮かべながら、カバンの中を探る。そうだ、出張先で買った妻へのお土産。最近元気のない彼女を元気づけたくて、縁起の良いとされる、手作りの木彫りのフクロウを買ったのだ。あの、丸みを帯びたフォルムと、澄んだ瞳のフクロウ。しかし、カバンの中をごそごそとかき回しても、それらしきものは見当たらない。まさか、どこかに落としてしまったのだろうか。

「あれ?どこいったかな…」

家の中を探し回ったが、フクロウの姿はどこにもなかった。妻に尋ねても、心当たりはないという。彼女の顔には、ほんの少しの寂しげな色が浮かんだ。健太は、妻を元気づけようと選んだ品が、無残にも失われてしまったかのように感じ、胸が沈んだ。

「もしかしたら、駅で落としたのかな…」

出張中に立ち寄った場所を、一つ一つ辿っていく。駅のホーム、ホテルのロビー、取引先のオフィス。そして、ふと、あの日立ち寄った小さな工芸品店を思い出した。あの店で、フクロウを手に取った時のこと。店主の佐藤さんと、少しだけ言葉を交わした記憶。あの時、妻が喜んでくれる顔を想像していた。そう、もしかしたら、あの店に置き忘れてしまったのかもしれない。翌日、健太はいてもたってもいられず、工芸品店へと足を運んだ。

店のドアベルが、懐かしい音を立てて鳴る。店主の佐藤さんが、穏やかな微笑みで健太を迎えてくれた。

「あの、すみません。先日、こちらで木彫りのフクロウを購入したのですが…」

事情を話すと、佐藤さんは静かに頷き、店の一角にある陳列棚を指差した。そこにあったのは、健太が探していた、あのフクロウだった。

「えっ…!?」

健太は驚き、なぜここにあるのか尋ねた。佐藤さんは、フクロウを手に取り、その小さな瞳を優しく見つめた。

「お客様がお帰りになった後、このフクロウがとても寂しそうにしていたのです。まるで、あなた様を待っているかのようでしたので、一時的にお預かりしておりました」

その言葉には、かつて自身も大切なものを失った経験からくる、物への深い共感が滲んでいた。佐藤さんは、フクロウに「さあ、おかえり」と、まるで子供に語りかけるように優しく声をかけ、健太の手にそっと渡した。

フクロウを受け取った健太は、不思議な温かさを感じた。それは、単なる木彫りの置物ではなく、佐藤さんの温かい心遣いと、フクロウ自身の「帰りたい」という意志によって、守られていたのだと理解した。妻への希望を胸に、健太は店を出た。日常に潜む、見えない優しさへの確信を抱きながら。

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