山のてっぺん、卒業の朝
冬の終わり、冷たい風が山の麓の小さな町を吹き抜ける。コタロウは、小学6年生。明日は卒業式だ。でも、なんだか胸がモヤモヤしていた。コタロウが一番好きな場所は、家の裏にある山のてっぺんだ。そこから見下ろす町並みは、まるで小さな模型みたいで、キラキラ輝いて見えた。でも、卒業したら、もうあんな風に、毎日、毎日、山に登れなくなっちゃうのかな?
「コタロウくん、どうしたの? 難しい顔をして」
担任のユキ先生が、優しく声をかけてくれた。
「先生、卒業したら、もう山には登れなくなっちゃうのかなって…」
「ふふ、卒業は終わりじゃないよ。新しい始まりなんだ。それに、山のてっぺんからの景色は、コタロウくんの心の中に、ずっとしまっておける宝物だよ」
ユキ先生の言葉は、いつだって温かい。でも、コタロウのモヤモヤは、まだ晴れなかった。
卒業式の前日。コタロウは、やっぱり山のてっぺんから町を眺めたくて、そっと裏山に登り始めた。冬の終わりはまだ厳しくて、山の途中から、霜が降り始めた。あっという間に、道は白く凍りつき、木々の枝にはキラキラと氷の花が咲き始めた。
「ひゅるる…」
冷たい風が、コタロウの頬を撫でていく。寒さと、ちょっとした不安で、コタロウは立ち止まってしまった。その時、風の音に混じって、不思議な声が聞こえた。
「どうしたの? さむい?」
それは、風が凍ったような、キラキラとした不思議な声だった。霜の妖精の声だ。
「だ、誰?」
「わたしは、霜の妖精。君の寂しい気持ち、わかったよ」
霜の妖精は、姿は見えないけれど、その声はとても優しかった。コタロウは、思わず自分の気持ちを伝えた。
「卒業、おめでとう」
妖精はそう言うと、コタロウの周りに、キラキラと輝く霜を降らせた。すると、霜が集まって、あっという間に、山のてっぺんの美しい模型ができあがったんだ!
「わあ…!」
模型は、まるで本物の山みたいに、キラキラと輝いている。それは、コタロウの未来への希望の光のように思えた。妖精は、コタロウの勇気を称えてくれた。
「君は、とっても勇気のある子だよ。さあ、この道を通って、山のてっぺんまで行こう」
妖精が道案内をしてくれる。霜でできた道は、まるで魔法の絨毯のようだった。コタロウは、 frosty の妖精に導かれるまま、山のてっぺんへと歩を進めた。
ついに、山のてっぺんにたどり着いた。そこから見下ろす町は、まるで宝石箱のように、キラキラと輝いていた。コタロウは、この景色を胸に、新しい場所でも頑張ろうと心に決めた。
「さようなら、コタロウくん。また、春の山で会おうね」
霜の妖精は、そう言い残して、風に溶けていった。
卒業式の日。コタロウは、希望に満ちた笑顔で、壇上に立った。校長先生の話を聞きながら、コタロウは、山のてっぺんの景色と、霜の妖精の言葉を思い出した。寂しさではなく、新しい冒険へのワクワク感が、胸いっぱいに広がっていた。
「新しい学校でも、また一緒に遊ぼうね!」
コタロウは、友達と力強く約束を交わした。ユキ先生と目が合い、にっこりと笑い合う。山のてっぺんの景色は、これからもずっと、コタロウの心の中で、キラキラと輝き続けるだろう。それは、新しい始まりを告げる、希望の光だった。