ゆうぐれのくもと、ふしぎな写真
海辺の町に、ココロちゃんという、とっても優しい女の子がいました。ココロちゃんは、おばあちゃんと、古い空港のそばのおうちに住んでいました。空港の近くの空には、ゆうぐれになると、ふわり、ふわりと、まるで生きているみたいな、やさしい雲が浮かんでいました。
「わぁ、ゆうぐれさんだ!」
ココロちゃんは、その雲を「ゆうぐれさん」と呼んで、毎日、クレヨンで絵に描いていました。ゆうぐれさんは、ゆっくり、ゆっくり、形を変えます。時には、大きなうさぎさんになったり、時には、ふわふわのおひげのおじいさんになったり。
「ゆうぐれさん、こんにちは!」
ココロちゃんが手を振ると、ゆうぐれさんは、きゅるきゅる、と、風の音みたいな声で、返事をしてくれるような気がしました。
ある日のこと、ココロちゃんはおばあちゃんと、古いアルバムをめくっていました。そこには、おばあちゃんが、ずーっと昔に撮った写真がたくさん。
「わぁ、この写真、なんだかきれいねぇ」
ココロちゃんが指さしたのは、一枚の写真。そこには、今よりもずっと小さくて、でも、ココロちゃんの大好きな「ゆうぐれさん」が、ちょこんと写っていました。
「この雲、ゆうぐれさんみたい!」
「ほんとだねぇ。わぁ、でも、この写真の隅っこに、なんだかぼんやりしたものが写ってるねぇ。なんだろう?」
おばあちゃんも、不思議そうに首をかしげました。写真の隅には、透明で、ぼんやりとした、人のようなものが写っていました。
「なぁに、これ?」
ココロちゃんは、おばあちゃんに聞きました。
「あら、不思議な写真だねぇ。もしかしたら、昔の風のいたずらかもしれないねぇ」
おばあちゃんは、優しく、微笑みました。でも、ココロちゃんの心は、ちょっぴり、ドキドキ、ワクワク。
その夜、ココロちゃんは、いつものように、空に浮かぶゆうぐれさんに話しかけました。
「ねぇ、ゆうぐれさん。今日、古い写真を見たんだ。写真の隅に、ぼんやりしたものが写ってたの。あれは、あなたなの?」
すると、ふわり、と、優しい風が吹いてきて、ココロちゃんの髪を、そっと撫でました。そして、遠くから、どこか懐かしい、優しい音が聞こえてくるような気がしました。
それは、まるで、風に乗って、「きみのえ、とってもきれいだよ」と、ささやくようでした。
「えっ? 私のために、絵を、描いてくれたの?」
ココロちゃんの心は、ぽかぽかと、温かくなりました。
ココロちゃんは、写真のぼんやりしたものが、昔、この空港で、誰かを、見送ったり、迎えたりしていた、優しい気持ちが、形になったものかもしれない、と思いました。だから、ゆうぐれさんみたいに、空をふわふわ漂って、寂しくないように、いつも、みんなのことを見守ってくれているのかもしれない、と。
「写真のゆうぐれさんも、空のゆうぐれさんも、いつもありがとう」
ココロちゃんは、心の中で、そっと、つぶやきました。
すると、空のゆうぐれさんが、キラキラ、キラキラと、まるで、小さな宝石みたいな光の粒を、ココロちゃんの周りに、ふりかけました。
それは、とても温かくて、安心できる、優しい光でした。
その日以来、ココロちゃんは、写真のぼんやりしたものが、ただの不思議なものではなく、誰かの、温かい想いが、空に残ったものだと信じるようになりました。
空のゆうぐれさんは、いつも、ココロちゃんのそばで、優しく形を変え、心地よい音を奏でてくれます。
ココロちゃんは、見えないけれど、確かに感じる、温かい繋がりに、心が、ふわふわ、と、満たされていくのを感じました。
おばあちゃんと一緒に、夕焼け空に浮かぶゆうぐれさんを見上げながら、ココロちゃんは、にっこり、微笑みました。
「ゆうぐれさんが、今日の空の色を、ココロのために、もっともっと、きれいに染めてくれたんだ。ありがとう、ゆうぐれさん。」
「ね、おばあちゃん、空って、こんなに優しいんだね。」
おばあちゃんも、優しく頷きました。
写真の、ぼんやりとしたゆうぐれさんも、きっと、そんなココロちゃんの、キラキラした笑顔を、静かに、優しく、見守ってくれていることでしょう。
空は、いつも、みんなを、優しく包んでくれているのですから。