ゆきのひ、屋上であいましょう
しんしんと、雪が、雪が、降り積もる朝。
こころちゃんは、窓の外の真っ白な世界に、うっとり。
「わあ、きれい…」
空から、ふわふわ、わたわた、白いお花が、たくさん、たくさん、降ってくるみたい。
でもね、学校へ行く準備をしていると、こころちゃんの、大好きな、大事な、ぬいぐるみがお腹のあたりに、小さな、小さな、穴が開いているのを見つけちゃった。
「あらあら、どうしよう…」
穴から、わたわた、綿が、出てきそう。
こころちゃんは、ぬいぐるみを、ぎゅーっと抱きしめ、ちょっとだけ、しょんぼり。
でも、すぐに顔を上げて、ぬいぐるみに、優しく、優しく、語りかけました。
「大丈夫だよ、きっと、治してあげるからね。」
教室に着いた、こころちゃん。
先生に、ぬいぐるみの、お話をしたんだ。
「先生、この穴、どうしたらいいかな?」
先生は、ニコニコ、優しく微笑んで、
「大丈夫だよ。お家に帰ってから、お母さんと一緒に、繕ってあげようね。でも、今日は学校で、お友達と、楽しく過ごそうね。」
給食の時間。
こころちゃんは、窓の外の雪景色を、見ながら、ぬいぐるみの穴のことを、考えていました。
そんな時、ふと、屋上から、何かが、キラキラ、キラキラ、光っているのに、気づいたのです。
学校の屋上は、普段は、立ち入り禁止のはず。
「あれは何だろう?」
こころちゃんは、ぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめ、いてもたっても、いられなくなり、そーっと、教室を出て、人気のない、階段を、駆け上がりました。
「ドキドキ、ドキドキ…」
屋上に出ると、そこは、一面の、銀世界。
風が、ふわふわ、と吹いて、雪が、キラキラ、と舞っています。
「わあ…!」
あの光は、屋上の隅っこで、小さな、綿あめのような、ふわふわした、妖精が、こころちゃんのぬいぐるみの穴と、同じくらいの大きさの、小さな、小さな、雪の結晶を、一生懸命、作っているところだったのです。
妖精は、こころちゃんに気づくと、にっこり笑うように、キラキラ、と輝きを増しました。
こころちゃんは、ぬいぐるみを、そっと、差し出しました。
妖精は、こころちゃんのぬいぐるみのお腹の穴に、ちょうど、ぴったりな、ふわふわの雪の結晶を、そっと、はめ込みました。
すると、穴は、きれい、きれい、に塞がり、まるで、最初から何もなかったかのようになり、穴からはみ出そうとしていた綿も、雪の結晶に包まれて、もっと、もっと、ふわふわになったように、見えました。
「まあ、きれい!」
「ありがとう!」
こころちゃんは、思わず、声を、あげました。
妖精は、こころちゃんの声に、さらに、嬉しそうに、キラキラ、と輝き、そして、こころちゃんの手に、小さな、小さな、雪の結晶の形をした、温かい光を、そっと、乗せました。
その光は、まるで、「大丈夫だよ、いつも、見ているよ」と、語りかけているかのようです。
ふと、屋上の入り口から、先生の声が、聞こえてきました。
「こころちゃん?どこかな?」
こころちゃんは、妖精に、「またね!」と、手を振り、急いで、階段を、駆け下りました。
屋上には、もう、妖精の姿は、ありませんでした。
ただ、ふわふわ、と雪が、舞っているだけでした。
こころちゃんは、自分の手に、残った、温かい光を、そっと、握りしめました。
心があたたかくなるのを、感じました。
教室に戻った、こころちゃん。
先生に、「屋上に行っていたんだよ」と、少しだけ、話しました。
先生は、「そうか、屋上は雪がきれいだったかい?」と、優しく、微笑むだけ。
こころちゃんは、ぬいぐるみを、そっと、抱きしめました。
穴は、すっかり塞がっていて、前よりも、もっと、ふわふわになったようです。
「よかったね、ぬいぐるみさん。」
手に残った、温かい光は、もう、見えないけれど、こころちゃんの心は、ポカポカ、と温かい。
まるで、屋上の妖精が、こころちゃんに、「世界は、こんなにも優しくて、温かいものなんだよ」と、教えてくれたみたい。
こころちゃんは、窓の外の雪景色を、眺めながら、にっこり、笑いました。
明日の学校も、きっと、きっと、楽しいことが、待っているだろう。
そして、こころちゃんは、ぬいぐるみを抱きしめながら、温かい気持ちで、眠りにつくのだった。
先生は、こころちゃんが戻ってきた後、屋上の入り口に、小さな、雪の結晶の形をした、不思議な跡が、残っているのを見つけるが、ただ、微笑むだけだった。
まるで、雪の精からの、小さな、秘密の贈り物のように。