星屑とビットコインのワルツ

「……あと、何周?」

星野miRaiの声は、夜風に紛れてかき消されそうになった。閉園間際の遊園地。喧騒は遠く、祭りの残響だけが、虚しく耳朶を打つ。

「百周?千周?ああ、それとも……」

天音Kaitoの声は、いつも軽やかだった。まるで、この静寂さえも、彼の遊び場であるかのように。

「もう、いいよ」

miRaiは、観覧車のゴンドラの窓を拭く手を止めた。祭りの賑わいも、人々の笑顔も、もう、遠い。ただ、見上げれば、星屑のような光が、夜空に散らばっているだけ。

「そんな顔するなよ、mirai。ほら、これ」

Kaitoは、懐から何かを取り出した。それは、miRaiが、もうとうに失くしたと思っていた、古いペンダントだった。銀色の、星屑のような飾りがついた、幼い頃の、宝物。

「……それ、どうして……?」

声が、震えた。拭きかけの窓に、自分の顔が歪んで映る。

「未来の君から、預かったんだ」

Kaitoは、悪戯っぽく笑った。その笑顔が、夜闇に溶けていく。

「失くした時間、覚えているかい? あの日の、あの瞬間」

「……」

「その代償に、君は『幻想』に囚われている。それが、ある『暗号通貨』の秘密と繋がってるって、知ってた?」

彼の言葉は、 miRaiの心の奥底を、静かに、しかし確実に掻き乱した。失くした時間。逃れられない過去。そして、見えない価値。

「時間を取り戻したいなら、方法はある」

Kaitoの声は、耳元で囁くように、甘く響いた。

「古びたメリーゴーランドの仕掛け。そして、特定の条件を満たした『暗号通貨』の取引。だが、その取引は、君が『幻想』から完全に覚める覚悟を要する」

「覚悟は、できてる?」

祭りの灯りが、一つ、また一つと消えていく。遊園地全体が、深淵へと沈んでいくような、錯覚。

二人は、観覧車の頂上を目指した。ゴンドラが軋み、ゆっくりと上昇していく。星屑が、より一層、鮮やかに瞬き始めた。

「……秘密の言葉、なんだっけ?」

miRaiは、Kaitoに尋ねた。

「それは、君だけが知っている」

Kaitoは、夜空を見上げたまま、静かに答えた。

観覧車の頂上。空っぽのゴンドラは、まるで、時間そのもののようだった。

「これが、君が未来で失ったもの。でも、取り戻せる」

Kaitoは、ペンダントを miRaiに返した。ひんやりとした銀の感触が、指先に伝わる。

「これは、過去じゃない。未来への鍵だ」

Kaitoは、告げた。遊園地の音楽が、ついに止む。全ての灯りが、消える寸前。

「さあ、ワルツを踊ろう。君の、新しい時間で」

彼は、消えゆくように、呟いた。

観覧車は、ゆっくりと、地上に降りていく。静寂。ただ、風の音だけが、耳に残る。

miRaiは、手の中のペンダントと、空になったゴンドラを見つめた。祭りの名残の風が、彼女の髪を撫でる。

口元に、かすかな微笑みが浮かんだ。ペンダントに刻まれた暗号を、彼女は静かに、しかしはっきりと口にした。

「……星屑の、ワルツ」

この記事をシェアする
このサイトについて