聖剣エクスカリバー、USBメモリになる
「先生、この古い剣、どう思いますか?」
山田花子、うちの塾の生徒。成績は中の上。でも、時々こうやって、なんかこう、ズレたこと言い出すんだよな。俺?俺は佐藤健太。星屑アカデミーの講師。元お笑い芸人志望。まあ、売れなかったけどな。
目の前にあるのは、確かに「古い剣」。いや、古いっていうか、なんというか…錆びてる。鉄くず? いや、鉄くずにしては、なんかこう、剣の形はしてる。でも、これエクスカリバー? 冗談だろ。
「エクスカリバー…って、あのアーサー王の?」
俺は思わずツッコミを入れた。だって、俺、昔、そういう伝説とか、奇跡とか、そういうのに憧れて、お笑いのネタもそういうのばっかり書いてたんだぜ。「もしも伝説の剣がコンビニで売ってたら?」とか、「勇者がバイトテロ起こしたら?」とか、まあ、全然ウケなかったけどな。
「はい! 私、古いものとか伝説とか、そういうのにすごく惹かれるんです。この剣、なんだか特別な力が宿っているような気がして…」
花子の真顔が、なんだか妙に説得力を持たせる。いや、でも、いくらなんでもそれは…。
「いやいや、花子ちゃん。エクスカリバーってのは、王の証とか、そういうやつでしょ? こんなボロボロじゃ、どう見てもただの…」
俺がそう言いかけて、ハッとした。待てよ。もし、もしもだよ? この錆びた鉄くずが、本当にエクスカリバーだったら? 芸人時代に温めていた、あの伝説ネタが、まさかの現実になる?
「…まあ、でも、確かに。この剣、なんかこう、オーラがあるっちゃあるよな? ちょっと待ってろ。俺、昔、伝説の剣についてめちゃくちゃ調べたことあってさ!」
俺は、まるで漫才の掴みのように、軽快に話を続けた。いや、だって、なんか面白そうじゃん? このどうしようもない状況が。
「…ふむ。その剣、わしが探し求めていたものかもしれぬな。」
突然、塾の片隅で、いつも静かに掃除をしている謎の老人が現れた。え、誰? いつからいたの? ドッキリ?
「え、あの、どなたですか? うちの塾の備品ではありませんが…」
俺が戸惑っていると、老人はゆっくりとこちらに歩み寄り、その錆びついた剣をじっと見つめた。
「わしは、この聖剣の守護者じゃ。お前たち、よくぞ見つけてくれた。」
守護者? 聖剣? マジかよ。俺、今、ドッキリにハマってるってこと? それとも、俺の妄想が現実になったのか?
「え、マジで? ドッキリ? どこの番組ですか?」
俺は、いつもの調子でツッコミを入れた。でも、老人の目は真剣そのものだ。花子も、俺以上に真剣な顔で老人の言葉を聞いている。
「うむ。しかし、この聖剣は、ある特殊な『封印』を解かねば、その真の力を発揮せぬのじゃ。」
封印? ほうほう、話が面白くなってきたじゃねえか。昔のネタ帳、引っ張り出してこようかな。
「で、その封印を解く鍵は、現代の『記憶媒体』にある、と。」
記憶媒体? 現代の? まさか…。
俺は、ピーンと来た。昔、お笑い芸人を目指していた頃、俺はたくさんのネタをデータにして、USBメモリに保存していたんだ。もう、何年も触ってない、あのUSBメモリ。
「記憶媒体…ですか? もしかして、先生、あのUSBメモリのことですか?」
花子が、俺の考えていることを察したように言った。俺は、ニヤリと笑って、リュックから埃まみれのUSBメモリを取り出した。
「これだ! 伝説のネタの宝庫! これを聖剣に…」
俺は、冗談半分でそう言った。でも、花子の目がキラキラしてる。老人も、興味深そうにUSBメモリを見つめている。
「うむ。それじゃ。そのUSBメモリを、聖剣の柄に突き刺すのじゃ。」
マジかよ。これで伝説の聖剣が、俺のくだらないネタで覚醒するのか?
俺は、期待と不安が入り混じる表情で、そのUSBメモリを聖剣の柄に、グイッと突き刺した。
カチリ。
閃光が走り…るわけもなく、ただ、USBメモリが聖剣の柄に、カチリ、と音を立てて、本体から分離した。
そして、聖剣は、さらに錆びつき、ボロボロになった。
「え…?」
花子が、呆然としている。俺も、言葉を失った。
「うむ、これは…」
老人が、唸った。いや、唸ってどうするよ!
「おいおい、どういうことだよ!」
俺は、いつもの調子でツッコんだ。でも、心臓はバクバクだ。だって、マジで意味が分からない。
「そのUSBメモリのデータが、聖剣の『封印』と同期し、聖剣の力を、その…吸い取ってしまったようじゃな。」
老人は、淡々と説明した。
「つまり、聖剣は…USBメモリになってしまった、と?」
花子が、恐る恐る尋ねた。
「そういうことじゃな。」
老人は、あっさりと認めた。俺は、しばらく放心状態だった。伝説の聖剣エクスカリバーが、ただのUSBメモリになった。俺の、くだらないネタのUSBメモリに。
「まあ、時代の流れじゃな。わしはこれで役目終わりじゃ。」
老人は、そう言うと、あっという間に姿を消した。残されたのは、ボロボロになった聖剣の残骸と、そこから抜き取られた、ただのUSBメモリ。
俺は、そのUSBメモリを手に取り、肩をすくめた。
「ま、これで伝説のネタは残ったってことか。これで、俺も売れる…かな?」
俺が、そう呟くと、花子が少しだけ笑った。俺の、どうしようもない人生みたいに、この聖剣も、USBメモリになってしまった。まあ、でも、悪くない結末だったのかもしれないな。うん、悪くない。