爆走!梅干しドローンと秘密のポータル
ジリジリジリ……!
頭が沸騰しそうなほどの猛暑だ。空からは太陽が容赦なくビームみたいな日差しを浴びせかけてくる。
「うおおお! あちぃぃぃ! 燃える! 俺が燃え尽きちまう!」
俺、カケルはTシャツの襟をバタバタとさせながら叫んだ。場所はいつもの秘密基地。神社の裏手にある、樹齢何百年だかわからない「伝説の梅の木」の下だ。 ミンミンミンミン! 蝉の大合唱が、俺の暑苦しさをさらに加速させる。
「なんか面白ぇこと転がってねーかなぁ!」
地面を蹴っ飛ばした、その時だった。
キラリッ!
梅の木の根元、雑草の影で何かが鋭く光った。
「ん? なんだこれ?」
俺は草をガサガサとかき分けた。そこにあったのは、大人の握り拳くらいの大きさの、奇妙な物体だった。 真っ赤で、表面がシワシワで、でも金属でできている。
「……梅干し? いや、鉄の塊か?」
鼻を近づけてみる。スンスン。
「うおっ! すっげー匂いするぞ!? 酸っぱいような、でもオイル臭いような……!」
その時だ。
キキキーーーッ!!
耳をつんざくブレーキ音とともに、砂煙が舞い上がった。
「ゲホッ、ゲホッ! カ、カケルくーん! 触っちゃダメですーッ!」
自転車ごと突っ込んできたのは、相棒のハカセだ。分厚いメガネが、真夏の太陽を反射してピカーッと光る。
「ハカセ! なんだよ急に! これ、すげーモン見つけたんだぜ!」
「わかってます! 僕のレーダーが反応したんです!」
ハカセは自転車を放り出し、俺の手元を覗き込んだ瞬間、顔色を変えた。
「ひぃぃッ! こ、これは……悪の組織『ブラック・ウメボシ団』の偵察ドローン『Type-カリカリ』ですよ!」
「ブラック・ウメボシ団!? なんだそりゃ、強そうじゃねーか!」
「笑い事じゃありません! 奴らは世界の全てのスイーツを梅味に変えようとしている恐ろしい連中です! このドローンには、奴らの秘密アジトの場所が記録されているはず……!」
ハカセの雰囲気がガラリと変わった。いつものビビリな態度はどこへやら、リュックから愛用のノートPCと工具セットをガチャガチャと取り出す。
「カケルくん、ここへ置いてください! ドローンは沈黙していますが、いつ自爆プログラムが作動するかわかりません。これより緊急オペ、『検死(分解解析)』を行います!」
「おう! なんかよくわかんねーけど、任せたぜ!」
俺はドローンを平らな石の上にセットした。
「ライト!」
「あいよッ!」
俺がパッと懐中電灯で照らすと同時に、ハカセの手がシュバババ! と動いた。 精密ドライバーが唸りを上げる。キュルルッ! カチッ! パキッ! すっげー速さだ! 指が何本あるんだってくらい、目にも止まらぬ早業で外装を剥がしていく。
「装甲、パージ! コアへのアクセスルート、確保!」
パカッ!
金属の梅干しが真っ二つに割れた。中から出てきたのは、種のような形をした黒いコアユニットだ。
「よし、こいつをPCに接続して……」
ハカセがケーブルをブスリと突き刺す。
ビビビビッ!
その瞬間、コアから青白い光が噴き出し、空中に巨大なホログラムが展開された。
「うおおお! 出たぁ! なんだこれ、地図か!?」
「成功です! これが奴らのアジトへの入り口を示すデータ……」
言いかけた、その時!
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
けたたましい警報音が神社中に響き渡った!
『侵入者ハッケン! 侵入者ハッケン! 排除シマス!』
無機質な機械音声とともに、ホログラムの画面から、真っ赤なデータで構成された獰猛な番犬たちが、ガウガウと牙を剥いて飛び出そうとしてきた!
「ひいいいッ! で、出たぁ! デジタル防衛軍のキラー・ハウンドです! 噛まれたら僕のPCどころか、脳みそまでハッキングされちゃいますぅぅ!」
ハカセが腰を抜かしてPCを落としそうになる。
「あわわわ! もうダメです! 回線切断も間に合わない! 僕らはここで終わりだぁ!」
「だぁぁぁッ! うるせえええ!」
俺は叫んだ。考えるより先に、体が勝手に動いていた。
「カ、カケルくん!?」
「そんなもん、こうしてやらぁッ!」
俺はケーブルで繋がったままの梅干しドローンを鷲掴みにすると、振りかぶって――
ドガァァァン!!
思いっきり地面の石に叩きつけた!
『ガガッ……ピ……!? シ、システム……エ、エラ……』
強烈な物理的衝撃に、ホログラムの番犬たちがバグって歪む。ザザッ、ザザザッ!
「なっ……!? 物理攻撃でセキュリティを突破した!? めちゃくちゃですよカケルくん!」
「細かいことはいいんだよ! 今だハカセ、やっちまえ!」
俺の怒号に、ハカセがハッと我に返る。メガネの奥の瞳が、再び鋭く光った。
「了解ッ! 計算完了、ファイアウォールの隙間を突きます!」
ハカセの指がキーボードの上で残像を残す。タタタタタタタタッ!
「食らえ、ファイナル・エンター・キーッ!!」
ターンッ!!
ハカセが渾身の力でキーを叩き込んだ。
シュンッ!
一瞬にして赤い警報が消え、青い光がPCの中に吸い込まれていく。
「データ抽出……コンプリート!」
プスン……と音を立てて、梅干しドローンは完全に沈黙した。 シーンと静まり返る秘密基地。聞こえるのは、再び鳴き出した蝉の声だけ。
「……やったか?」
「……はい。完璧です」
俺とハカセは顔を見合わせ、ニカッと笑った。
「へへっ、さすがだなハカセ!」
「カケルくんの馬鹿力のおかげですよ!」
バチンッ!!
泥だらけの手と手が、力強くハイタッチを交わした。
「で、どこなんだ? そのアジトってのは」
ハカセがPCの画面を俺に向ける。 そこに表示された地図を見て、俺たちは息を飲んだ。
「こ、これは……隣町の『オバケ廃工場』!?」
ハカセがゴクリと唾を飲み込む。
「噂じゃ、夜な夜な謎の機械音が聞こえるって場所ですよ……本当にあそこに行くんですか?」
ビビってるハカセの足は震えている。でも、その目はワクワクして輝いていた。 俺も同じだ。心臓がドクンドクンと高鳴っているのがわかる。
「当たり前だろ! ブラック・ウメボシ団だか何だか知らねーが、俺たちの夏休みを邪魔する奴はぶっ飛ばす!」
俺はニヤリと笑って、自転車に飛び乗った。
「へへっ、面白くなってきやがった!」
「もう、仕方ないですねぇ。僕の頭脳がないと、カケルくんはすぐ迷子になりますから!」
ハカセも慌てて自転車を起こす。
「行くぞハカセ! 全速力だッ!」
「待ってくださいよぉー!」
ダダダッ!
俺たちはペダルを思いっきり踏み込んだ。 キコキコとチェーンを鳴らし、風を切って走り出す。 目指すは隣町、オバケ廃工場! どんな敵が待っていようと関係ない。俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ!