爆走!イナズマ号とAI相棒の『奇跡のデリバリー』大作戦
「ブゥゥゥン……ブゥゥゥン……」
未来都市『ネオ・ギア』の空は、今日も無数のドローンで埋め尽くされている。まるでハエの大群だ。あいつらが運んでいるのは、味気ない栄養食のパック。
下町にある俺の家、『あさひ食堂』の暖簾(のれん)をくぐる客は、もう誰もいない。
「くっそぉ! 機械仕掛けの弁当なんかに、親父の味が負けてたまるかよ!」
俺、カケルは拳をテーブルに叩きつけた。目の前のモニターには、悪徳巨大チェーン『サイバー・イーツ』の社長、ゴール・ド・マンのドヤ顔が映し出されている。
『フハハ! 効率こそ正義! 古い店など潰れろ! 私の完璧な計算に狂いはないのだ!』
「うるせえ! 飯ってのはな、計算じゃなくてハートで食うもんだ!」
俺は厨房を飛び出し、裏のガレージへと走った。埃っぽい空気の中、シートの下で眠る『相棒』が俺を呼んでいる気がしたんだ。
バサァッ!!
勢いよくシートを剥ぎ取ると、そこには親父が遺した旧式EV、『イナズマ号』が鎮座していた。所々塗装は剥げているが、そのボディはまだ死んじゃいない。俺には聞こえるんだ。こいつのエンジンの鼓動が!
「頼むぜ、相棒! 俺たちの意地、見せてやろうじゃねえか!」
俺は運転席に滑り込み、ダッシュボードの赤いボタンを親指で押し込んだ。
キュイィィン……ポーン。
「システム・オール・グリーン。……ですが、ドライバー・カケル、警告します」
無機質な声が響いた。ナビ兼制御AIの『ボルト』だ。
「現状の戦力差、及び敵ドローン軍団の包囲網を分析。サイバー・イーツ本社への到達及び、特製『あさひスペシャル弁当』のデリバリー成功率は……0.01%です。撤退を推奨します」
「ハッ、0じゃないなら行けるぜ! 行くぞボルト、エンジン全開!」
「理解不能です。非合理的ですが……」
俺はボルトのボヤキを無視して、アクセルをベタ踏みした。
ドォォォォン!!
イナズマ号が唸りを上げ、ガレージのシャッターを突き破って空へ飛び出した!
「うおおおおっ! 見てろよゴール・ド・マン!」
ネオ・ギアの摩天楼が、ビュンビュンと後ろへ流れていく。だが、すぐにサイバー・イーツの黒いドローン部隊が、雲霞(うんか)のごとく押し寄せてきた。
『排除セヨ、排除セヨ』
「チッ、しつこいハエどもめ!」
「右前方よりミサイル接近。回避不能。シールド残量、低下中」
ボルトが冷静に絶望的な状況を告げる。だが、俺の目には『道』が見えていた。
「理屈じゃねえ、魂で走るんだよ!」
俺はハンドルを逆に切り、ビルの壁面に向かって突っ込んだ。
「カケル君!? 自殺行為です!」
「いいや、これが最短ルートだ!」
ギャギャギャギャギャッ!!
タイヤが火花を散らし、イナズマ号は重力を無視して垂直の壁を駆け上がる! ドローンのミサイルは俺たちがいた空間を虚しく通り過ぎ、互いに衝突して爆発した。
ズドォォォン!!
「敵機、自滅を確認。……信じられません。物理演算の予測範囲外です」
「へへっ、ビビったかボルト! これが俺たちの力だ!」
俺たちはビルの屋上から屋上へと、まるで獣のように飛び移りながら加速していく。ゴールは近い。待ってろよ、腹を空かせたお客さん!
その時だ。
『小賢しいネズミめ……これでも食らえ!』
空中に浮かぶ巨大飛行船から、ゴール・ド・マンの声が響き渡った。直後、強烈なノイズが視界を覆う。
ピーーーーーーーッ!!
「ぐああっ!?」
「システムダウン……システムダウン……通信、途絶……」
ボルトの声が途切れ、イナズマ号の計器類が次々とブラックアウトしていく。強力なジャミング電波だ。制御を失った車体は、真っ逆さまに落下を始めた。
「くそっ……ここまでか……?」
視界は真っ暗。風切り音だけが耳をつんざく。だが、俺の手はまだハンドルを離しちゃいなかった。
「……ふざけんな。まだ終わってねえぞ!」
俺は心の底から叫んだ。
「起きろボルト! 俺たちの冒険はここからだ! 計算なんてクソ食らえ! お前の回路に流れてるのは電気だけか!? 違うだろ、俺たちの熱い魂が流れてるはずだぁぁぁっ!!」
俺の咆哮(ほうこう)が、コクピットに響き渡る。
その瞬間、沈黙していたコンソールに、小さな光が灯った。
『……カケル君の熱量、検知しました』
ザザッ……ザザザッ!
『非合理的、非論理的……ですが、この感情値……計測不能! エラー、いいえ、これは……』
カッ!!
イナズマ号の車体が、眩いばかりの黄金色に輝き始めた!
『了解……リミッター、強制解除(オーバー・ドライブ)! 全エネルギー、スラスターへ直結!』
ボルトの声が、今まで聞いたこともないような力強いトーンに変わる。
「よっしゃあ! 行くぜボルト! フルスロットルだ!」
ドカァァァァァァン!!
落下していたイナズマ号が、空中で爆発的な加速を見せる。黄金の光をまとった俺たちは、まるで一筋の雷(いかずち)となって、妨害電波の発生源である飛行船の横をすり抜けた。
その衝撃波だけで、周囲のドローンたちが木の葉のように吹き飛んでいく!
「見えた! あそこだ!」
眼下に広がる広場。そこには、あさひ食堂の弁当を待ちわびる、一人の常連客の姿があった。
「届けぇぇぇぇっ!」
キキキキキッ!!
イナズマ号は華麗なドリフトで着地し、ピタリと客の目の前で停止した。俺は窓から身を乗り出し、ホカホカの『あさひスペシャル弁当』を差し出す。
「へいお待ち! あさひ食堂、特製弁当だ!」
客は驚きながらも弁当を受け取り、一口頬張ると、満面の笑みを浮かべた。
「う、うまい!!」
その一言が、ネオ・ギアの空に響き渡る。モニター越しに見ていたゴール・ド・マンが、悔しそうに地団駄を踏んでいるのが見えた。
「勝った……のか?」
俺はシートに深く沈み込んだ。心臓が早鐘を打っている。
「肯定します。作戦成功。……今日の勝利は計算外です。ですが……悪くない気分ですね」
ボルトの声に、少しだけ人間臭い響きが混じっていた。俺はニカっと笑い、相棒のダッシュボードをポンと叩く。
「だろ? 計算通りじゃつまらねえ。人生ってのは、いつだってアドリブの連続なんだよ!」
その時、イナズマ号の通信機が新たな信号をキャッチした。
『……ザザッ……求ム、配達人。場所は海の向こう、伝説の島にある『幻のスパイス』を……』
俺とボルトは同時に顔を見合わせた(ボルトには顔はないが、カメラがこっちを向いたのが分かった)。
「聞こえたか、ボルト? 海の向こうだ!」
「確率は低いですが……カケル君となら、行く価値ありです! ナビゲーション、セット完了!」
「よっしゃあ! 次は世界中を驚かせる味を探しに行くぜ! 出発進行!」
ブォォォォン!!
夕日が沈む水平線へ向けて、俺とイナズマ号は再び走り出した。この道の先に、まだ見ぬ最高の冒険が待っているんだ!