燃える社内ポータル

静寂が支配する放課後のオフィス。誰もいない、ただ、キーボードの微かな打鍵音だけが響く。橘詩織は、社内ポータルを食い入るように見つめていた。画面に映る、神崎隼人の投稿。そこに、次々と追加されていく「いいね!」の数。それは、彼女の心を容赦なく抉る。ああ、まただ。私なんて、どうせ、あの人の心に触れることすらできない。そう思えば、胸の奥から冷たい嫉妬の炎が燃え上がり、同時に、どうしようもなく、この私だけを見てほしい、という切ない願いが、暗い海のように波打つのだ。

同期の相川恵が、楽しそうに神崎の投稿にコメントしている。あの、キラキラした笑顔。詩織の胸は、鉛のように重く沈んだ。相川への嫉妬。それは、神崎への、この私だけのものになってほしい、という悍ましいほどの独占欲と結びつき、彼女の心を、内側から静かに、しかし確実に蝕んでいく。

神崎の投稿に、相川からのコメントが、まるで磁石のように引き寄せられるように、いつも付いている。詩織は、それを何度も、何度も、見せつけられる。私だけじゃない、私だけじゃないんだ。その事実は、彼女の心を、鈍く、重く、焦がしていく。ああ、私じゃダメなの? 私の方が、ずっと、ずっと、先輩のこと…!

この、どうしようもない独占欲が、相川という存在そのものへの、具体的な、黒い悪意へと変貌していく。社内ポータルは、彼女にとって、希望の光であると同時に、残酷な現実を突きつける、憎むべき鏡なのだ。

ある日、詩織は、社内ポータルに、神崎が「個人的な相談」と称して、誰かにメッセージを送っているのを目撃してしまった。その相手が、なんと、相川だったのだ。画面に映る、神崎の、あの冷たい、感情の読めない視線。それが、詩織の心を、凍てつかせた。もう、ダメだ。抑えきれない、沸騰したような嫉妬と怒りが、彼女の全身を駆け巡る。衝動的に、普段の自分を捨てて、神崎に詰め寄った。

「先輩、あのメッセージ、何ですか!?」

普段の、あの控えめな橘詩織は、もうどこにもいない。神崎は、詩織の豹変に、一瞬、動揺したように見えた。だが、すぐに、いつもの冷静な、しかしどこか冷たい声で答えた。

「君には関係ないだろう。君は、ただの同期だろう?」

その言葉は、詩織の心の、最後の、脆い砦を、無残にも打ち砕いた。

神崎の、あの冷たい言葉。絶望。虚無。詩織の心は、真っ暗な底に沈んでいく。しかし、その場に、まるでタイミングを見計らったかのように、相川が現れた。彼女の口から放たれる、悪魔のような言葉。

「詩織、あなた、神崎先輩のこと、そんなに好きなの? でも、神崎先輩は、あなたみたいな地味な子じゃなくて、もっと華やかで、自分を立ててくれる人が好きなんだと思うわ。私みたいにね。」

相川の言葉が、詩織の感情の、最後の、踏みとどまろうとしていた堤防を、破壊した。長年、心の奥底に押し込めていた、憧れ、嫉妬、怒り、そして、どうしようもない絶望。それら全てが、一気に、噴き出した。神崎への、あの狂おしいほどの愛憎。相川への、この世のものとは思えないほどの憎悪。そして、自分自身への、激しい苛立ち。それらが、詩織の中で、激しく、激しく、燃え盛っていく。

「うるさい!!!」

詩織の、魂を削り取るような叫びが、放課後の、静寂に包まれたオフィスに、木霊した。彼女は、目の前の神崎と相川に、まるで、燃え盛る炎のように、向かっていく。普段の、あの臆病な自分を、全て捨て去って。剥き出しの、醜くも美しい感情を、ぶつける。

その叫びには、神崎への、狂おしいほどの愛情が、裏切られたことへの、激しい憎悪が、混沌として入り混じっていた。「先輩のこと、誰よりも…!でも、先輩は私なんか、見てくれない!」

神崎は、詩織の、まるで豹変したかのような剣幕に、凍りついた。相川は、詩織の、制御不能な激情に、恐怖に顔を引きつらせた。社内ポータルには、二人の、あの冷たいやり取りが、静かに、しかし残酷に、表示されたまま。詩織は、二人に掴みかからんばかりに迫り、その瞳は、憎悪と、狂おしいほどの愛情で、燃え盛っていた。その瞬間、彼女の感情は、臨界点を超え、爆発した。全てが、白く、燃え尽きるかのような、激しい閃光に包まれた。彼女の叫びは、愛憎の果ての、紛れもない、魂の叫びだった。

この記事をシェアする
このサイトについて