観測記録:日付不明

観測対象:地方都市、夜。

選定理由:特定の日に人間が示す「勤労」に関連する行動パターンの記録。

観測開始。

スーパーマーケット。照明は点灯しているが、来訪者は少ない。定時を過ぎているため、この時間帯の活動は非効率的と推測される。

数名の人間が確認できる。そのうちの一名、識別コード「男」に注目する。

男は、午前零時を数分後に控えて、店舗入口から入店した。その動きには、購入意欲や目的意識が希薄である。彼はまず、店内に設置されたカレンダーが配置されている場所へ移動した。壁に掛けられたカレンダーの日付を、指先でなぞる。次に、店内の時計を確認する。その視線は、特定の、あるいはもう過ぎ去った日付に固定されているかのように見える。時刻と日付の照合を繰り返す。この行為の論理的帰結は不明である。

男は、陳列棚の商品に注意を払うことなく、店内を巡回する。買い物かごは空のままだ。その歩行パターンは、迷路を彷徨う生物のそれに酷似している。疲労の色が、その姿勢や動作の遅延に現れている。しかし、彼は店舗を出る気配を見せない。目的を達成しようとする行動とは認められない。

数十分後、男はレジへ向かうことなく、空の買い物かごを手に、出口へ移動した。観測者は、彼の「勤労」の定義が、購買活動ではなく、単に「活動」という行為そのものに内包されている可能性を仮説として提示する。

店舗の外へ出た男は、夜道を歩き始めた。街灯の明かりが、彼の影を歪ませる。やがて、彼は横断歩道に差し掛かった。信号は、赤を示していた。

男は、歩行者信号が赤であるにも関わらず、横断歩道に足を踏み入れた。対向車線から、一台の乗用車が接近している。車は、速度を落とすことなく、男の進路へ向かってくる。観測者は、この事象を「予測された終焉」として記録する。男の行動には、衝突を回避するためのいかなる兆候も見られない。彼の身体は、まるで受動的な物体のように、進行方向を定める。

その傍らで、別の人間、識別コード「女」が、遠巻きにこの光景を観測している。彼女は、男の行動を静かに見守る。その視線は、男の顔に一瞬だけ向けられ、やがて、何かを理解したかのような、あるいは理解できなかったかのような、無表情に変化した。女の視線に付随する感情的なニュアンスは、観測対象のデータとして記録するが、その意味の解釈は保留する。

車は、男の身体に衝突した。

衝撃音。男の身体は、空中に抛り出され、アスファルトに落下する。破片が飛散し、その後、静寂が訪れた。男の、活動は停止した。

女は、その場に静止していたが、やがて、ゆっくりと踵を返し、その場を離れた。その足取りに、焦燥や悲嘆といった感情の痕跡は認められない。

観測対象のサンプルが一つ、観測フィールドから消滅したことを記録する。

夜の街に、静寂が戻った。観測は継続する。

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