部長の隠し玉

最新鋭のAI開発プロジェクト、気合が入るっす! なんたって、このプロジェクトは会社の命運を握ってるっていう噂っすからね。俺、山田太郎は、このプロジェクトで一旗あげてやろうと、キラキラした目で最新GPUを眺めていた。いや、正確に言うと、ピカピカ光るGPUに、俺の顔が映って、なんだかカッコよかったから、それで気合が入った、っていうのが本当のところなんすけどね、へへっ。

「山田さん、そのGPU、触るだけならいいですけど、落としたら弁償ですからね」

クールビューティー、部下の田中花子が、いつものように冷静に釘を刺す。彼女は優秀だ。俺がドタバタと空回りしている間に、ちゃっかりと重要なタスクをこなしていく。俺の相棒であり、ツッコミ役でもある。ありがたい、本当にありがたい。

「へへっ、わかってるって、花子ちゃん。でも、この最新AI、マジですごいんだぜ! 俺たち人間の知能を、超えるんじゃないかって言われてるんだ!」

俺が興奮気味に語ると、花子は小さくため息をついた。

「ええ、そのポテンシャルは理解しております。だからこそ、部長も期待されているのでしょう」

部長、佐藤一郎。温厚で面倒見の良い、俺たちの頼れる上司だ。しかし、最近の部長の顔には、会社の業績不振の影が色濃く落ちていた。このAIプロジェクトにかける彼の想いは、俺たちの想像以上だろう。俺も、部長の期待に応えたい。なんとしても、このプロジェクトを成功させて、部長を笑顔にしたいんだ。

プレゼン当日。会場には、投資家やメディア関係者など、そうそうたる顔ぶれが集まっていた。俺は、自信満々に壇上に上がり、自慢のAIを発表した。しかし、事態は予想外の方向へと転がり始める。

「AI、今日の天気は?」

俺が問いかけると、AIはしばらく沈黙した後、突然、けたたましいサイレンの音を鳴らし始めた。

「えっ?」

会場がざわつく。俺は慌ててAIに指示を出す。

「いや、天気! 天気だよ!」

するとAIは、今度はどこかで聞いたことのある、おかしな効果音を流し始めた。それは、数年前に俺が趣味で自作した、くだらない効果音だった。なぜ、AIがそれを…。

「えーと、AI、調子悪いみたいっすね。ちょっと、調整します!」

俺が狼狽えていると、AIは突然、変なBGMに合わせて、意味不明なダンスを踊り始めた。会場は、爆笑と困惑の渦に包まれた。俺は、顔面蒼白。花子も、目を丸くして固まっている。佐藤部長は、苦笑いを浮かべながら、なんとか場を収めようとしていたが、その表情は次第に曇っていった。

プレゼン後、俺は落ち込んでいた。花子は、そんな俺を尻目に、徹夜でAIのログを調べてくれていた。

「山田さん、原因が分かりました。AIに、不可解な『制限』がかかっていたんです」

「制限? まさか、誰かが細工したとか?」

「いいえ、それは……山田さんが過去に作成された、『個人的なプログラム』が原因でした」

「は? 俺が作ったプログラム? そんなの、全く覚えてないっすけど!」

花子は、俺が全く覚えていないはずの、あるプログラムのコードを画面に映し出した。そこには、驚くべき事実が隠されていた。

数年前、佐藤部長の娘さんが、病気で亡くなった。彼女は、AI開発に没頭するあまり、自分との時間を失っていく父を、ずっと悲しんでいたという。この「個人的なプログラム」は、娘さんが、父である佐藤部長に、最後のメッセージをAIに読み込ませるために、密かに作成したものだったのだ。娘さんは、父に「自分を忘れないでほしい」と伝えたかった。しかし、そのメッセージは、AIの性能を著しく低下させる要因でもあった。

佐藤部長は、娘さんの遺志を叶えるために、そして会社の窮地を救うために、AIの性能を意図的に制限していたのだ。娘さんの悲願と、会社の命運。その二つを天秤にかけ、部長は苦渋の決断を下していた。

「部長……」

俺は、部長の隠された愛情と、深い悲しみに、ただただ涙が溢れてくるのを感じていた。

俺は、会場にいる全員に、プレゼンでAIの性能を制限した本当の理由を語り始めた。そして、AIが本来の性能を発揮する代わりに、部長の娘さんの「声」を再現し、娘さんからのメッセージを読み上げさせることにした。

AIが、娘さんの温かい声で語り始めた。「お父さん、いつもありがとう。お父さんが頑張っている姿、ずっと応援していたよ。でも、たまには私のことも思い出してね……」

そのメッセージは、娘さんの声だけでなく、俺が過去に作ったおかしな効果音や、俺がよく使う口癖を織り交ぜて、まるで「山田さん仕様」のメッセージのように響いた。娘さんの声と、部長への感謝の言葉、そして俺の口癖が混ざり合い、会場は静寂に包まれた。

佐藤部長は、山田の計らいに、そして娘の想いに、静かに涙を流していた。俺は、AIの性能ではなく、その背後にある人間の温かい想いを伝えることこそが、真の「驚き」であり、感動であると悟った。最新技術の進化に驚きつつも、それ以上に、家族の深い愛情に涙腺を崩壊させられる。俺たちのプロジェクトは、会社の命運を左右する大成功とはならなかったが、それ以上の「価値」を会場にもたらしたのだった。

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