Bluetoothで繋がる、草むしりの革命
「太郎!いい加減にしなさいよ、あの庭!」
妻の花子の雷が落ちたのは、先週の土曜日だった。最新ガジェットに囲まれ、スマートホーム化された我が家で、唯一、いや、唯一と言っては語弊があるが、どうしてもスマート化できない場所。それが、山田太郎、こと私の、庭だ。
「いやー、花子さん、あれはあれで、自然の摂理に任せてるっていうか、エコじゃない?」
「エコよ、エコ。でも、あまりにエコすぎると、夏場なんて雑草のジャングルよ。近所の迷惑にもなるって、町内会で言われてるのよ!」
花子の言う通りだ。最新のAIスピーカーに話しかければ、照明をつけ、音楽をかけ、今日の天気まで教えてくれる。コーヒーメーカーも、スマホ一つで起動できる。なのに、庭の雑草だけは、なぜか私に「手で抜け!」と訴えかけてくるのだ。これが、なんとも面倒くさい。
そんな時、ネットの広告が私の目に飛び込んできた。「Bluetoothで草むしり革命!最新スマートリストバンドで、あなたの庭を瞬時に美しく!」
「なんだこれ、面白そうじゃん!」
怪しげな海外製ガジェットだったが、私の「面倒くさがり」と「最新技術好き」という二大欲求を同時に満たしてくれるかもしれない。ポチッとクリック。数日後、怪しげな箱が届いた。
リストバンド型のデバイス。説明書は、まあ、読めないことはない。要約すると、「装着し、Bluetoothでスマホと連携。雑草に手をかざし、アプリの指示に従うだけ」とのこと。なんだ、簡単じゃないか。
土曜日の午後。花子は家庭菜園の誘いを断り、図書館へ出かけた。「頼んだわよ、太郎。ちゃんとやってちょうだいね」と念を押されての、庭仕事だ。
「よっしゃ、やるか!」
リストバンドを腕に装着。スマホでアプリを起動し、庭へと繰り出す。まずは、一番厄介な、あの、生え放題の雑草どもだ。
「おい、雑草ども。お前らの時代はもう終わりだ!」
リストバンドを装着した手を、雑草にかざす。アプリ画面に「対象を認識しました。駆除レベルを設定してください」と表示された。おお、すごい!
「よし、レベルMAXで頼む!」
私は、迷わず「MAX」ボタンをタップした。
リストバンドから、かすかに「ピー」という電子音が聞こえる。そして、微弱な何かが、雑草に発せられているような気配。しかし、雑草はピクリとも動かない。
「…あれ?」
「やっぱり、ダメか。こんなもんだよな、海外製ガジェットは。」
落胆し、腕を下げようとした、その時だった。
庭の隅。これまで、私が「まあ、いいか」と放置していた、畑の端っこに生えていた雑草が、ゆっくりと、しかし確かに、私の手元に向かって移動し始めたのだ。
「う、うわっ!なにこれ!?集まってくる!?」
まるで、目に見えない磁石に引き寄せられるように、雑草が、私のリストバンドの周りに、むくむくと集まってくる。それは、まるで、地中から現れる巨大な毛虫のようだった。
「太郎!何やってるのよ!」
ちょうど図書館から帰ってきた花子が、私の異様な光景を見て、目を丸くした。
「いや、花子さん!これ、このリストバンド、Bluetoothで雑草を引き寄せてるんだよ!草むしり革命だ!俺、天才!」
興奮する私。集まってきた雑草は、あっという間に私の足元を覆い尽くし、さらに増え続ける。リストバンドの周りに、雑草の「壁」ができ始めた。
「革命もいいけど、あんた、身動き取れないじゃない!」
花子の指摘通り、雑草は私の体を覆い、まるで巨大な毛布のように、私を包み込もうとしていた。リストバンドの電波は、雑草を「集める」だけでなく、「圧縮」する力まで持っていたのかもしれない。
「助けて!Bluetoothで窒息しそう!」
私は、草むらの海に沈みそうになりながら、必死に叫んだ。
花子は、呆れたような、でもどこか心配そうな顔で、私を雑草の山から救い出そうとしてくれた。数分後、なんとか私は、雑草の山から解放された。しかし、リストバンドは腕から外れない。そして、集まってきた大量の雑草は、私の体臭と混ざり合い、なんとも言えない、異様な匂いを放っていた。
「はぁ…太郎ったら。」
花子は、ため息をつきながら、私の手元に、軍手と鎌を渡した。
「いい?太郎。いくら技術が進んでも、この原始的な労働だけは、自分の手でやるしかないのよ。」
私は、Bluetoothのロゴが光るリストバンドを眺めながら、ふと呟いた。
「でも、このリストバンド、結構あったかいんだよな。」