爆走!ナノ・オーシャン・ライダーズ
「うおおおお! いっくぜぇぇぇ、シィィィン!!」
「ちょ、ちょっと待ってよダン! まだ最終チェックが……って、聞いてないし!」
俺、ダンは、相棒の制止なんて耳に入っちゃいない。目の前に広がるのは、キラキラと輝く『ブルー・ポート』の海だ。潮風が俺の鼻をくすぐり、全身の血がドクドクと騒ぎ出す。考えるより先に、足が勝手に動いちまうんだよ!
タタタッ、ダンッ!
港の堤防を全力疾走し、俺は空へ向かって大きく跳躍した。重力がフワッと消えるあの感覚。最高だ。 足元には、シンが夜なべして作った最高傑作『ナノ・スケート』。
「頼むぜ、相棒!」
バシャァァァッ!!
着水の瞬間、爆発的な水しぶきが上がった。だが、俺は沈まない。 スケートのホイールから放出された無数のナノマシンが、瞬時に海水を結晶化させる。青白く発光する『ナノ・ロード』が、俺の足元から一直線に伸びていく!
ギュイイイイィン!!
「ヒャッホォォォウ! 見ろよシン! 海の上を飛んでるみたいだ!」
俺は腰を落とし、海面スレスレを滑走する。風切り音がビュオオォッと鼓膜を叩き、景色が線になって後ろへぶっ飛んでいく。これだ、このスピードだ!
「もう、無茶苦茶なんだから……。データは良好。ナノマシンの定着率、120%! 計算通り……いや、計算以上だ!」
インカムから聞こえるシンの興奮した声に、俺はニカっと笑ってさらに加速した。
沖合までカッ飛ばして、波と追いかけっこをしている時だった。
「ん? なんだありゃ」
チャプン、と波間に漂う古びたビンを見つけた。拾い上げて中の紙を取り出すと、そこには見たこともない島の地図が描かれていた。
「『アトランティス・ベース』への航路図……? おいシン、これすっげぇお宝じゃねーか!?」
「バカ言うなよダン。そんなの都市伝説だ。ネットの怪談掲示板でしか見たことないよ」
シンは呆れたように言うが、俺の直感がガンガン警鐘を鳴らしてる。これはホンモノだ。俺の赤いゴーグルの奥、瞳がメラメラと燃え上がるのが分かった。
「伝説? 上等だろ! 誰も見たことがないなら、俺たちが一番乗りだ! 行くぞッ!」
「ええっ!? またそうやって勝手に……!」
俺は返事も聞かずに、地図が示す方角へホイールをきった。ギャギャギャッ! 青い火花を散らしながら、俺たちは未知の海域へと突っ込んでいく。
たどり着いたのは『魔の三角海域』。空気がビリビリと震えている。
ザザァァァァァンッ!!
目の前に立ちはだかったのは、ビルのような高さの巨大な波の壁だ。空を飲み込むような威圧感。普通ならここで引き返す。だが、俺たち『ナノ・オーシャン・ライダーズ』は違う!
「ダン! 右前方、30度の角度で波の裂け目がある! タイミングを合わせて!」
「おうよ! シンのナビがあれば、こんな水たまり、ただの滑り台だぜ!」
俺は波の壁に向かって直角に突っ込んだ。重力が俺を押し潰そうとするが、膝のバネで耐える。
グオオオォッ!
波がトンネルのように渦巻くチューブの中へ、俺は飛び込んだ。上下左右、すべてが荒れ狂う水の壁。その中心を、青い光の道を作りながら突き抜ける!
「見えたッ! 出口だ!」
ズバァァァッ!
波のトンネルを突き破り、俺は空高く舞い上がった。太陽が眩しい。最高の気分だ!
だが、着水したその瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴ……!!
海面が割れ、巨大な影がせり上がってきた。鋼鉄のボディ、不気味に光る赤い目。防衛用カニ型ロボット『ガーディアン・クラブ』だ!
「侵入者排除、侵入者排除」
ガギィィィン!!
巨大なハサミが振り下ろされ、俺がさっきまでいた海面が粉砕された。
「ヒィッ! あんなの勝てるわけないよ! エネルギー残量もレッドゾーンだ、撤退しようダン!」
シンの悲鳴が響く。確かに、真っ向勝負じゃ勝ち目はない。だが、俺は不敵に笑った。
「逃げる? バカ言え。あいつの背中、見たか? 極上の『坂道』じゃねーか!」
「はぁ!? ……っ、もう! 分かったよ、君ならそう言うと思った!」
シンの声が変わった。覚悟を決めた男の声だ。
「スラスターのリミッター解除! 全エネルギーを推進力へ! 『オーバーロード・モード』、発動ッ!!」
「ありがとよ、相棒ぉぉッ!!」
ギュルルルルルンッ!!
足元のスケートが悲鳴を上げ、爆発的な推進力が俺の背中を蹴り飛ばした。俺は一直線にロボットへ向かう。
「うらぁぁぁ!」
ガシャァン! とロボットのハサミを駆け上がり、その勢いのまま鋼鉄の腕を垂直に登り切る! 一気に頭上へ躍り出た俺は、空中で体をひねり、回転を加えた。
「これで……終わりだぁぁぁッ!!」
必殺の踵落としが、ロボットの頭頂部にある停止スイッチへ炸裂する!
ドカァァァァンッ!!
衝撃音が海に響き渡り、巨大ロボットはその場に崩れ落ちた。 静寂が戻った海。すると、海底から眩い光と共に、ドーム状の遺跡が浮上してきた。
「やったな、ダン……!」
息を切らして追いついてきたシンと、遺跡の中へ足を踏み入れる。そこには、ただ一つ。空っぽの台座と、空を指差す石像があるだけだった。
「なんだよ、空っぽかよ。宝の山じゃなかったのか?」
俺はケラケラと笑った。命がけの戦いの報酬がこれかよ。でも不思議と、腹は立たなかった。 シンが石像の指差す先、青く澄み渡った空を見上げて言った。
「いや……どうやら、この遺跡はただの『道しるべ』みたいだぜ。次の地図は、あの『空』にあるらしい」
「空、だぁ?」
俺は目を丸くし、そしてニカっと笑った。
「へっ、海の上を走る次は、空の散歩かよ。面白くなってきやがった!」
「僕の新しい発明が必要になりそうだね。忙しくなるぞ」
「望むところだ! 置いてくぞ、シン!」
「あ、待ってよダン!」
俺たちは顔を見合わせ、拳を突き合わせる。新たな冒険への武者震いが止まらない。
「行くぜ、ナノ・オーシャン・ライダーズ、全速前進ッ!」
俺たちは夕日に向かって、今までで一番速く、力強く走り出した。 冒険は、まだ始まったばかりだ!