眠れる都市の頌歌

都市国家アエテルニタスが、その創生を祝う光の氾濫に備える頃、俺は死者の言葉を拾っていた。定められた労働期間の終焉、すなわち永眠という名の解体を前にした期間者たちの、最後の呼気を記録する。それは忘却という熱的死に抗い、宇宙の塵からプシュケーの残響を掬い上げる神話的儀式。だが同時に、クロノスの支配者たる永年者たちが、我々の存在証明をデータという名の墓標へ整然と収めるための、冷徹な手続きに他ならなかった。

記録保管所の静寂は、予期せぬ訪問者によって破られた。古文書官エララ。ハイパースリープの恩寵を受け、時間の浸食を知らぬ永年者の女。彼女の存在そのものが、俺たちが生きる時間とは異なる物理法則の下にある、異世界の天体のように感じられた。 「歴史という名のタペストリーに、欠けた糸を紡ぎたくて」 彼女は優雅に微笑み、期間者の記録閲覧を求めた。その眼差しは、我々の凝縮された生を、まるで希少な蝶の標本を眺めるかのように玩味している。畏怖と、決して埋まることのない断絶が、俺の内で渦を巻いた。

対話は、平行する二つの宇宙が、互いの存在を観測し合う行為に似ていた。エララは我々の生を、詩句で飾り立てる。 「あなた方の魂は、神々の業火に焼かれながら、悲劇的ながらも美しい叙事詩を奏でる。それは冥府に響くオルフェウスの竪琴のよう。その音色を永遠に留めるあなたこそ、神々の火を盗んだ、我らの時代のプロメテウスですわ」 その言葉は、美学という名の麻酔によって搾取の構造を隠蔽する、巧妙な欺瞞に聞こえた。賛美の裏に透ける無自覚な傲慢さが、俺の内で静かな怒りの燐光を放つ。俺は無言で、一つの記録を彼女の眼前に提示した。かつてハイパースリープという偽りの永遠を拒絶し、有限の生を全うしようとした反逆者――彼女が言うところの「最初のプロメテウス」――の、絶望に満ちた最後の独白だった。

創生記念日の式典のただ中、天蓋を埋め尽くす人工のオーロラが、永年者たちの無限の未来を祝福していた。その光の下で、俺は自らの労働期間の満了を告げられた。システムの歯車としての役割の終焉。俺は最後の記録として、自分自身の言葉を遺すことを決めた。 エララを呼び出す。彼女の揺れる瞳に、俺は都市創設の原罪を、凍てついた声で突きつけた。 「あなたがたの歴史のタペストリーは、血で織られている。このアエテルニタスという永遠の牢獄は、捧げられた我々期間者の有限の命を、最初の礎石として築かれたのだ」

衝撃に彩られた彼女の顔が、憐憫に歪む。「特例を申請しましょう。あなたを、こちら側へ……永年者として迎えることも」 その救済は、俺という存在の否定に等しかった。俺は静かに首を振る。 「私の尊厳は、この有限の記憶という、星屑にも似た儚さの中にこそ宿る。永遠とは、変化を拒絶した静謐な死体だ。私は、私の終わりを全うする」 システムの救済ではなく、自らの哲学への殉教。それが俺の選択だった。

エララの目の前で、俺の意識は記録装置へと流れ込み、最後の言葉を紡ぐ。そして、俺という存在を構成していた記録のすべてが、光の粒子へと分解されていく。それは都市の巨大なアーカイブ――集合的記憶の銀河――へと還る、静かな昇華だった。一つの恒星が、その生涯を終えて星雲に還るように。

残されたのは、永年者の女と、問いだけだ。有限の生に殉じるという選択は、崇高な意志の表明か、それとも無力な諦念の果ての自己陶酔か。星屑となった記憶は、銀河の片隅で、意味を持つ光として輝き続けるのか、あるいは無数のデータの中に埋もれ、ただのノイズと化すのか。永遠という名の虚無の中で、彼女はこれから、その答えのない思索の迷宮を、独り彷徨うことになる。

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