爆走!異世界人力馬車とオレの脚

燃えるような夕焼けが、俺の視界を真っ赤に染め上げていた。 「はっ、はっ、はっ……!」 荒い呼吸と、土を蹴る音だけが河川敷に響く。俺、カケルは走っていた。いつものランニング? いや、違う。俺はいつだって、昨日の自分を追い越すために走ってるんだ! 「まだだ……もっと、もっと速く!」 ドクン! 心臓が早鐘を打つ。足の筋肉が悲鳴を上げても、俺は止まらない。 バッ! 地面を強く蹴り出し、風になろうとしたその瞬間だった。 「な、なんだ!?」 足元のマンホールが、カッ! と強烈な光を放った。まるで太陽が地面の下から爆発したみたいに。 「うわああああっ!?」 ヒュンッ! 体が宙に浮く感覚。景色が歪む。俺の体は、光の渦の中へと真っ逆さまに吸い込まれていった!

……。 ドッカン!! 「いったぁ……! なんだ、ここ!?」 強烈な尻餅をついて目を開けると、そこは鉄の箱の中だった。いや、箱じゃない。油と錆(サビ)の匂いが鼻を突く。壁も床も、むき出しの鉄板だらけだ。 ズズーン! ゴゴゴゴゴ……! 凄まじい地響きが全身を揺らす。 「うわっ! 地震か!?」 「違う! 追いつかれるぞ!」 頭上から切羽詰まった声が降ってきた。見上げると、変なゴーグルをかけた少年が、複雑なレバーを握りしめて叫んでいる。あいつがガラムか! 「おい、外を見ろ!」 言われて、鉄格子の隙間から外を覗く。 「嘘だろ……!?」 俺は絶句した。後ろから迫ってくるのは、廃材や歯車がデタラメに融合したような、巨大な鉄屑の怪物――『スクラップ・ゴーレム』だ! ギシャアアアアッ! 怪物が腕を振り上げると、地面がえぐれ、土煙が舞い上がる。 「あんなのに捕まったら、ペチャンコだぜ!?」 「分かってる! だが、動力が足りねえんだ!」 ガラムが悔しそうに計器を叩く。 「俺の作ったこの『ギア・チャリオット』は最強だ。だが、今のエネルギーじゃアイツからは逃げ切れねえ。あと少し……爆発的な『回転数』があれば!」 回転数? 動力? 俺は周りを見渡した。そこにあったのは、部屋の真ん中に鎮座する、巨大なホイール。まるで、デカいハムスターの回し車だ。 「……へっ、なるほどな」 俺の口元が、自然とニヤリと歪む。 考えるより先に、俺の体は動いていた。 タンッ! 「おい! 何する気だ!?」 「動力が欲しいんだろ? だったら、俺がくれてやるよ!」 俺はホイールの中に飛び込むと、靴底をガチッ! と金網に食い込ませた。 「いくぜぇぇぇっ!」 ダダダダダッ! 俺は走り出した。最初は重い。錆びついた鉄の塊が、俺の足を拒絶するようにのしかかる。 キュル、キュルキュル……! 「くっ、おっもてぇ……!」 「無茶だ! 人間の足で回せる重さじゃ……!」 ガラムの声をかき消すように、俺は腹の底から叫んだ。 「うるせええぇ! 止まるなんて、無理だぜっ!!」 ドクン、ドクン、ドクン! 血液が沸騰する。重い? だからどうした! 俺の足は、壁を越えるためにあるんだ! ギュイイイイーン! 不意に、ホイールが悲鳴のような音を上げて回転を始めた。 「なっ!? 数値が……跳ね上がってる!?」 ガラムが目を見開く。 「うおおおおおっ! もっとだ! もっと回れぇぇぇ!」 バチバチバチッ! 俺の足元から火花が散る。摩擦熱で靴底が焼け焦げそうだが、そんなの関係ねえ! ボウッ!! 背後のマフラーから、青白い炎が噴き出した。 「すげえ……! お前、何者だ!?」 「俺はカケル! ただの、走るのが大好きな男だ!」 ガラムがゴーグル越しにニカッと笑った。 「面白え! カケル、もっといけるか!?」 「当たり前だ!」 二人の呼吸が、ガチッ! と噛み合った瞬間だった。 キィィィィィーン! 耳をつんざく高音と共に、景色が線に変わった。音速突破!? 「いっけえぇぇぇーーっ!!」 ズドオオオオオン! 馬車はロケットのように加速した。迫り来るゴーレムの巨大な手が、鼻先をかすめる。 「危ねえ!」 だが、目の前には底が見えないほどの大峡谷! 道がない! 「ガラム! 道がねえぞ!」 「関係ねえ! このスピードなら、空だって飛べる!」 ガラムがレバーを引く。 「飛べぇぇぇっ!」 ビュンッ! 浮遊感。 俺たちは、大峡谷を飛び越えていた。眼下でゴーレムが崖の縁で止まり、悔しそうに咆哮するのが見えた。 「へっ、ざまあみろってんだ!」

ザザザーーーッ! 砂煙を上げて、馬車は荒野の真ん中で停止した。 プシューッ……。 蒸気が漏れる音だけが、静寂の中に響く。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 俺はホイールから転がり落ち、大の字になった。足が棒みたいだ。でも、最高に気持ちいい。 「おい、大丈夫か?」 ガラムが運転席から降りてきて、俺に手を差し伸べる。その手は油まみれだったが、震えていた。興奮で。 「……ああ。最高だったぜ、ガラム」 俺はその手をガシッ! と握り返した。熱い体温が伝わってくる。言葉なんていらない。俺たちは今、命を預け合って走ったんだ。 「お前こそ、俺がずっと探していた『伝説のランナー』だ! お前の脚があれば、俺のマシンはどこまでだって行ける!」 ガラムはそう言うと、懐からボロボロの地図を取り出して広げた。 「見ろよ、カケル」 「ん? なんだこれ」 そこには、見たこともない大陸や島々が描かれていた。そして、地図の真ん中にデカデカと書かれた文字。 『世界一周・超高速馬車レース・グランプリ』 「世界一周……レースだと!?」 俺の目が、キラキラと輝きだすのを止められなかった。 「優勝賞品は、どんな願いも叶う『究極の歯車(マスター・ギア)』だ。……どうだ、カケル。俺と一緒に、世界最速を目指してみないか?」 ガラムの問いかけに、俺は靴ひもをキュッ! と結び直して立ち上がった。 答えなんて、決まってる。 俺は地平線の彼方、まだ見ぬ冒険が待つ方角を指差して、ニカッと笑った。 「へへっ、面白そうじゃねーか! ガラム、次は二人でぶっ飛ばすぞ!」 異世界での大冒険は、まだスタートラインに立ったばかりだ!

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